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―――真人さんの配属先は本社。どうやら店舗管理する部署を予定しているらしい。 「・・・進学先、絞れそうだな?」 父さんがニヤリと笑う。 俺は、その父さんの言葉に即答する。 「―――――N大・・、が、いい」 絞ったんじゃない。東京に行っていいのなら、絶対そこに行きたいと思っていた。 だって・・・。 「・・・父さんと同じとこ、行きたい」 父さんは一瞬驚いたように目を見開いて、それから嬉しそうに笑った。 「――――簡単には入れねぇぞ?」 俺の頭をぐしゃっと撫でてそう言うと、少しだけ目を伏せた。――――――目の際が赤いのは気のせいだろうか・・・。 簡単じゃないことくらいわかってる。 父さんは『デキる子』だった。―――――生活態度やアチラの事情は・・・イイカゲンだったらしいけど。 最初から何でもできたわけじゃなくて、陰で必死に努力して、他者の前では飄々としてるような、負けず嫌いな奴なんだって、ずっと前、翔ちゃんが言ってた。 甘々の俺だけど、それはちょっと似ていると思う。―――――まぁ、俺がそれを発揮させているのは空手だけなんだけど。 でも、その父さんの血が俺の中にもしっかり流れてる。 父さんにできて、俺にできないはずがない。 だったら死に物狂いで頑張るまでだ。 まだガキで。 すげー頼りなくて。 ・・・情けないほど泣き虫だけど。 だったらそれも受け入れる。 自分の力じゃまだ何もできない。 周りの大人たちに助けられて、守られて、ぬくぬくと育ってきた俺。 言ってみれば温室育ちだ。 別に悲観しているわけでも、卑下しているわけでもない。 使えるもんはしっかり使う。 差し出された温かい手はありがたく掴ませてもらう。 意地も外聞も、プライドだって捨ててやる。 真人さんと一緒にいられるんだったら、どんなことも踏み台にして俺は前に進んでやるんだ。 ―――――かっこ悪ぃけど、こんな選択、きっと俺にしかできない。 進学することはちゃんと言っておこう。 目指す将来も伝えてみよう。 でも。 一緒に暮らせるってことはまだ秘密にしておこう。 喜んでくれるといいな。 気楽な学生と違って、社会人として働く真人さんの足手纏いにならないように、今からでも身の回りのことをできるようにしておこう。 ばあちゃんにメシの作り方とか掃除洗濯も教えてもらおう。 あー、俺、きっとこれからすごく忙しくなるな。 ―――――楽しみだ。 俺のこんな企みを、真人さんが知ったらどんな顔するかな。 どのタイミングで彼に伝えようか。―――――今から楽しみでしょうがない。 きっと「ここだ!」なタイミングが巡って来るはず。 今はまず、目の前のことに立ち向かわねば。 「・・・っつーわけで父さん。塾、通っていい?」 平成生まれ。温室育ち。瀬能耀、18歳。―――――親もコネも、フル活用する事をここに宣言します!
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