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4
―――真人さんの配属先は本社。どうやら店舗管理する部署を予定しているらしい。
「・・・進学先、絞れそうだな?」
父さんがニヤリと笑う。
俺は、その父さんの言葉に即答する。
「―――――N大・・、が、いい」
絞ったんじゃない。東京に行っていいのなら、絶対そこに行きたいと思っていた。
だって・・・。
「・・・父さんと同じとこ、行きたい」
父さんは一瞬驚いたように目を見開いて、それから嬉しそうに笑った。
「――――簡単には入れねぇぞ?」
俺の頭をぐしゃっと撫でてそう言うと、少しだけ目を伏せた。――――――目の際が赤いのは気のせいだろうか・・・。
簡単じゃないことくらいわかってる。
父さんは『デキる子』だった。―――――生活態度やアチラの事情は・・・イイカゲンだったらしいけど。
最初から何でもできたわけじゃなくて、陰で必死に努力して、他者の前では飄々としてるような、負けず嫌いな奴なんだって、ずっと前、翔ちゃんが言ってた。
甘々の俺だけど、それはちょっと似ていると思う。―――――まぁ、俺がそれを発揮させているのは空手だけなんだけど。
でも、その父さんの血が俺の中にもしっかり流れてる。
父さんにできて、俺にできないはずがない。
だったら死に物狂いで頑張るまでだ。
まだガキで。
すげー頼りなくて。
・・・情けないほど泣き虫だけど。
だったらそれも受け入れる。
自分の力じゃまだ何もできない。
周りの大人たちに助けられて、守られて、ぬくぬくと育ってきた俺。
言ってみれば温室育ちだ。
別に悲観しているわけでも、卑下しているわけでもない。
使えるもんはしっかり使う。
差し出された温かい手はありがたく掴ませてもらう。
意地も外聞も、プライドだって捨ててやる。
真人さんと一緒にいられるんだったら、どんなことも踏み台にして俺は前に進んでやるんだ。
―――――かっこ悪ぃけど、こんな選択、きっと俺にしかできない。
進学することはちゃんと言っておこう。
目指す将来も伝えてみよう。
でも。
一緒に暮らせるってことはまだ秘密にしておこう。
喜んでくれるといいな。
気楽な学生と違って、社会人として働く真人さんの足手纏いにならないように、今からでも身の回りのことをできるようにしておこう。
ばあちゃんにメシの作り方とか掃除洗濯も教えてもらおう。
あー、俺、きっとこれからすごく忙しくなるな。
―――――楽しみだ。
俺のこんな企みを、真人さんが知ったらどんな顔するかな。
どのタイミングで彼に伝えようか。―――――今から楽しみでしょうがない。
きっと「ここだ!」なタイミングが巡って来るはず。
今はまず、目の前のことに立ち向かわねば。
「・・・っつーわけで父さん。塾、通っていい?」
平成生まれ。温室育ち。瀬能耀、18歳。―――――親もコネも、フル活用する事をここに宣言します!
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