ひとめぼれ

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ひとめぼれ

俺、瀬能耀<セノヒカル>は恋をした。 それも完全な一目惚れだ。 相手は色白で綺麗なおそらく年上の人。 修学旅行で立ち寄った土産物屋でバイトしていた。 叶わないまま諦めた初恋から1年と少し。 中学3年の春の事だった。 2泊3日の修学旅行を終えていつもの生活が戻ってからも忘れられず、真夏の太陽が照りつける季節になっても俺の脳内はあの人の事でいっぱいだった。 もう2度と会えないかもしれない人。 片道6時間もかかる場所に住むその人にまた会う事なんて、きっともうないんだと諦めかけていた俺に、限りなくゼロに近い可能性だったけど再会できるかもしれないチャンスは巡ってきた。 「今年の全国はまた随分と遠くで開催されるんだな・・・。車で6時間ってさすがにキツイな。新幹線にするか?―――――って、おい耀、聞いてるか?なんか顔がおかしなことになってるぞー」 父さんが俺を少し高い位置から見下ろして、訝しげな表情を向けている。 「・・・おかしなことって何だよ。失礼だな、父さん。――――けど、今年の全国がまさか修学旅行で行った場所になるなんて思わなかったなぁ・・・。ウヘヘ・・」 自分でもよーくわかってる。嬉しくて顔のニヤつきを引き締められない。 全国大会に出る事よりもあの人に会えるかも、って期待が俺の顔をだらしなく緩めてるんだ。 「―――大丈夫か?本気でヤバいぞ?なんつーか・・・だらしねぇな、締まりがないって言うか――――なぁ、怜、こいつ何かヘンだよな?」 父さんが呆れた様にそう言って、いつの間にかその後ろに立っていた恋人(籍を入れたからもう家族だけど・・・)の怜兄ちゃんに話を振った。 「・・・そう?京さんが気にし過ぎなんじゃない?―――耀、晩メシできたってさ、早くおいで」 「え~、そうかぁ~?パパにはいつもと違うように見えるんだけどなぁ・・・。ま、何もないなら別にいいけど。―――あ、怜。今年の全国大会は俺も行けるから、帰り3人で観光して来ようぜ!去年も一昨年も俺だけ行けなかったし、2年続けてお留守番は寂しかったんだよー。しかも尚なんて当たり前みたいに一緒に行きやがって・・・。今年から尚はうちの会社の従業員だからな。社長の俺サマが休みなんて与えねぇ。あいつは黙って翔太とよろしくやってりゃいいんだよ」 「うわぁ、ちっさい男だなぁ・・・。――――って、耀の前でベタベタひっつくなよ、暑苦しいなぁ・・・ちょっ、どこ触ってんだよ、やめろって――――」 目の前で何だかんだと言い合いながらもイチャつくバカップルを、いつものような冷めた目で見れないのは、今自分が同じく恋をしているからだろうか。 俺もいつか、こんな風にあの人と仲良くできる日が来ればいいな・・・。なんて、目の前の二人を羨ましい気持ちで眺めながら小さくため息を吐くと、何となく怜兄ちゃんと目が合ってしまった。 怜兄ちゃんは何か企んでるみたいな笑みを浮かべ、声には出さず、”アトデヘヤニイク”と唇だけ動かした。 俺がちょっと考えてから小さく頷いたのを見て、「ほら、二人とも早く行こう。綾子さんに怒られるよ」と軽やかに階段を降りて行った。 ひと月半後に迫った全国大会。 一目惚れしたあの人が住んでいる(・・・だろう)あの土地に行けば、また会えるだろうか・・・。 名前も知らない。 年齢も知らない。 知らないことだらけだ。 けど・・・。 俺が恋をした相手が同性だってことはちゃんとわかっているんだ。
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