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「ほんで、これがその時の女の子ってことか?」
とっつぁんがテレビの画面を指さした。
キリオ君の部屋で、六人は鍋をつついている。
画面には夜のニュース番組が流れていて、すらりとした背の高い女の子がギターを弾きながら歌を歌っている。透明感のある歌声は、人を惹き付ける魅力に溢れている。学生ボランティアで施設を訪れて、子供達に歌を歌ってあげるところを撮った映像のようだった。
「めっちゃ歌上手だし、かっこええやん」
みとさんがうっとりと言う。
そうやろ、となぜかケンザキは得意そうだ。
なるほど、あの小説はそういうことか、とあおいが言った。
「でも、彼女が歌っているのは世の中に対する怒りじゃないよ」
「そうやね、どちらかと言うと夢と希望についてやんね」
夢も希望も怒りも紙一重や。どっちでもええねん、とケンザキが無茶なことをいう。
大事なのはアイツが元気で歌い続けてるってことやろうが。
六人は、しばし箸を持つ手を止めてテレビから流れる透き通った声に聞き入った。人よりも沢山大変な想いをしたからこそ、歌える歌がきっとある。
「春の歌、やな」
ケンザキが満足そうに頷いた。
完
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