13人が本棚に入れています
本棚に追加
さいしょのことば
今年4歳になる娘に、言語発達障害があることが分かった。
娘のりこは、2歳になっても、3歳になっても、ぜんぜん意味のある言葉をしゃべらなかった。
周りはみんな私に気を遣って、「きっとそのうちしゃべり出すよ」とか、「うちの子も遅かったんだよ」とか言ってくれた。
まさか自分の子どもに障害があるなんて思ってもみなかったから、私は、りこはきっと私に似てのんびり屋なんだなあ、なんてのんきにかまえていた。
それが、3歳児健診でひっかかった。
娘の丸い小さな手を引いて、保健センターに行った日のこと。
ただでさえ落ち着きのないりこは、なじみのない空間でいつも以上に落ち着かない様子だった。大きな茶色い瞳でキョロキョロと周りを見渡しては、ソファの上で立ったり座ったりを繰り返す。
私たちの番がやってきた。
娘に話しかけた保健師さんが「あれ?」という顔をして、また何回か声をかけた。保健師さんは半笑いで、娘に関する二、三のことを私に質問したあと、気まずそうに口を開いた。
「お母さん、ちょっと言いにくいのですが……」
それで、小児科で検査をしてもらうことになった。
検査の結果、耳に問題はないらしい。
簡単な言葉から練習してみてください。と事務的に、能面のような顔をした医師から伝えられた。
言語療法士のもとで、「ことばの教室」なる幼児向けの言語訓練を受けることになった。
しかし、
「それでもやはり、親子の毎日のやり取りに敵うものはないのです」
と医師は言う。
初老の医師はしゃべっている間中ずっと前を見ていて、せわしなくパソコンになにかを入力していた。
私と娘が診察室に入ってから出るまで、医師がこっちを見ることは一回もなかった。
最初のコメントを投稿しよう!