さいしょのことば

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 家庭での工夫点としていくつかのことを教えてくれたので、私はメモした。  その夜、寝巻きに着替えた私は一人、ソファでお茶を飲んでいた。ハンドバッグから取り出したメモ用紙をそっと開く。 1)しゃべらせようとするよりも、まずは理解力をつけること。 「○○を持ってきて」など、簡単な指示を出す。 2)コミュニケーション意欲を育てること。 子どものしたいことを表現させて、それを親も一緒にする。 3)聞く力を育てること。 子どもの顔を見ながら、短い簡単な言葉で話しかける。 絵本の読み聞かせをする。 4)社会性を育てること。 地域の親子交流教室や幼稚園・保育園の行事に積極的に参加する。  そこで、私はハッとした。  そういえば、娘は来年から幼稚園児だ。  言葉が話せないまま幼稚園に入れるのはまずい。友達ができないかもしれないし、もしかしたら、みんなからうとまれるかもしれない。仲間はずれにされることも考えられる。  ふいに隣の部屋から歯ぎしりの音が聞こえてきた。私は立ち上がって、光が差し込まないように少しだけふすまをずらした。  愛娘は布団の上で寝息をたてている。  ふっくらとしたほっぺ、シューマイの上に乗っかっているグリンピースのようなこぢんまりとした鼻、顔の横に添えられた手の、短く丸い指先。  くったくなく笑う可愛い笑顔を思い出すと、鼻の奥がツンと痛くなった。
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