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娘にとって一番必要な言葉はなんだろう。
友だちから嫌われることなく、少々言葉を話せなくても人から迷惑がられない魔法の言葉。
私はそれを何日も考えて、仕事でほとんど家にいない夫にも、いまいちソリの合わない姑にも相談した。
その結果、娘には「ごめんなさい」を最優先で教えることにした。
集団生活は協調が第一。話さないりこは、みんなの足をひっぱることも多々あるだろう。
「りこ、ごめんなさい」
「あー」
「ごめんなさい、は?」
その日、洗濯物を干し終えた私は、リビングでりこと向き合っていた。
りこは、ぜんぜん私の言うことを聞いていない。
言葉こそ話さないが、りこは4歳児のありあまるパワーで家の中を走り回り、近頃お気に入りのアニメのキャラクターになりきってプラスチックの刀を振り回している。
洗濯物と並行して、昼ごはんの用意もしている途中だった。鍋がシューっと吹いて、私は慌ててガスコンロを切った。
せっかくの鍋があふれてしまった。掃除しなくちゃ、と布巾を水に濡らした。
その間も、りこは私の後ろで走り回っている。当然の結果として、何かをひっくり返す激しい音が聞こえた。
ハッと振り向くと、りこがさっきまで遊んでいたおもちゃ箱が逆さまになって、中身が床にぐちゃぐちゃに散らばっていた。
こんもりとした小山が部屋の真ん中にできている。りこは悪びれるでもなく、そのそばにあぐらをかくみたく座っていた。
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