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私は「ここだ!」と思い、りこの元へ駆けた。
「りこ、ごめんなさい、は?」
しゃがみこんで、目線を合わせる。
だけどりこは私に目もくれず、おもちゃの山に手を伸ばしている。
「ねえ、りこ。悪いことしたら、あやまらないといけないよ。ごめんなさい。ほら、言ってごらん」
しかしやっぱり、りこはこちらを見なかった。取り憑かれたように夢中で、小さな手でがしゃがしゃとおもちゃの山をかき分けて、さらに部屋を荒らしてゆく。
どうしてこの子は私の話を聞かないのだろう。私はこんなに娘を思っているのに、どうしてこの子は私のことを無視するのだろう。
私は、だんだんと頭に血が上ってくるのを感じた。
「りこ! 聞きなさい!」
声を荒げると、りこは腕をおもちゃの山から引き抜いた。その手には何かが握られている。
りこは嬉しそうにこちらを見ると、「だー」と意味不明の声を発して、伸び上がるように反対の手を大きく上げた。
その手にはプラスチックの刀が握られていて、刀は下から私のあごを打ち抜いた。
歯と歯のあたるガチンという高い音がして、口の中に血の味がした。くちびるが切れたらしい。
そのとき、家の外でザーッと音がして、雨が降り出したのだと分かった。
部屋の中はめちゃくちゃ。作った鍋は吹きこぼれて、干したばかりの洗濯物はおじゃん。おまけに私の口は流血していて、言葉をしゃべれない娘と狭い空間に二人きり。
泣きたくなった。
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