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「りこ……」
つぶやく声は、娘には届かない。
りこは私の気持ちなんておかまいなしに、小さな拳をつきあげて、反対の手には刀を持って、しゃがみこんでいる私の胸に体当たりして来た。
私は体勢を崩して、そのまま後ろに倒れた。床でしたたか頭を打つ。あまりの痛さに呆然としてから、急に怒りが沸点に達した。
「もうイヤ!」
私がすごい勢いで立ち上がったもんだから、私の上に馬乗りになっていたりこがコロコロと床に転がった。
「なんでよ、なんでしゃべんないのよ!」
りこはにこにこしながら素早く起き上がると、もう一度私めがけてタックルしてきた。
「やめて!」
大声を上げながら避けると、再びプラスチックの刀が私の腹を打った。きちんと痛い。これにはもう、さすがの私も平常心を失ってしまった。
りこが憎い。母親なんてやってられない。
私はさっと片手を振り上げると、ふっくらとした桃色の横っ面めがけて、手のひらを振り下ろしかけた。
「いい加減にして!」
私の上げた金切り声に、りこは初めて異変を知ったらしい。
一瞬のうちに茶色い目を丸くして、小さな身体をぎゅっと硬くした。両手を上げて、顔を庇うしぐさをする。
そのとき、りこの手の中から、なにかがぽろりと落ちた。私は手のひらを振りかぶったまま、とっさに視線で追う。
それは、黄色いバナナのおもちゃだった。
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