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バナナはゴム製で、りこが赤ちゃんのときに歯固めとして使っていたものだ。あれはたしか歯の生え始めのころだったから、生後5ヶ月か6ヶ月ごろのことだったはず。
あのときはまさか、りこに障害があるなんて思ってもみなかった。
私のせいだ。
急に涙が溢れた。
視界が歪んで、りこ目掛けて振り下ろしかけた手のひらで顔を覆う。
りこに障害があるのは、私がちゃんと産んであげられなかったから。私が早く異常に気付いてあげられなかったから。ダメな母親でごめんね……
後悔の念が次から次へと溢れた。
りこはというと、泣いてる私なんて目にも入らないらしく、しゃがんでバナナのおもちゃを拾い上げた。そして再び私の胸にタックルしてくる。
涙に濡れる瞳で見下ろすと、りこは私の胸の前で、にっ、と笑った。
それで分かった。
りこは体当たりしてるんじゃない。抱きついてきてたんだ。
ふくらんだほっぺ。シュウマイの上に乗ってるグリーンピースみたいなちっちゃな鼻。茶色い大きな目。全てが、愛しい。
こんなにダメなママなのに、それでも全身で愛を伝えてくれる。りこは、異常なんかじゃない。
生まれてきてくれてありがとう。
りこが生まれたときの感情が、私の中に鮮やかによみがえった。私は生まれたてほやほやの血まみれた宇宙人みたいなりこを抱いて、たしかにあのとき、「ありがとう」と言ったのだ。
私をママに選んでくれてありがとう。
ベビーベッドの中を見つめながら、なんど思ったかしれない。
それなのにいつのまにか、りこに対する私の気持ちは、「ありがとう」から、「ちゃんと産んであげられなくてごめんね」、に変わっていた。
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