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「はい。分かりました」一旦目を閉じてスイッチをONにする。――おれではない、まったく別の誰かになり切るのだ。いつものようにそれをすると雑念が振り払われる感覚がする。新しい――自分が目覚めるのだ。
撮影は順調に進み仕事を十六時であがった。プライベート優先で活動をしており、業界のブラックな体質も改善しようと試みている。とはいえ、肝心のおれがリテイクばかりしていてはお話にならないので、一発でOKを貰えるよう努力しているつもりだ。
せっかく表参道に来たので、ケーキでも買って帰るか。子どもたち――それに紘花の姿が目に浮かぶ。
不思議と現場を離れると、帰宅して台本を読むとき以外は仕事のことを考えることは一切ない。プライベートはプライベート、と割り切っている。とはいえ、プライベートで行動してても、世間の目と言うものは降り注ぐわけで――勝手にカメラを向けられるくらいにはほどよく、おれは、有名人である。
ありがたい話である。かつて――夢破れ、自分を見失ったことがあった。救い出したのはあいつらだった。
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