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嫌われたくなかった。
彼が眠るベッドを背に、エナジードリンクを飲んでスマホの明かりを頼りに大学の課題に取り組んだ。
突き放されたくなかった。
全てを完璧にやろうとは思っていないけれど、できないことはなるべく少なくしたかった。平凡だけれど、平凡を保つためにも努力と、努力をし続ける才能が必要だった。
難しかった。
恋愛も学業も家事もバイトも上手くこなすのは。
その中のどれのレベルを落としても許されるんだろう。幻滅されずにすむんだろう。
20年間育ててくれた親を悲しませるのも嫌だったから、2年間付き合っている彼になら努力を怠った自分を見せても平気だと思った。
早起きをせず、朝ご飯を作らなかった。化粧をしなかった。すっぴんで寝癖のついたまま彼に「おはよう」と言った。
まだ隣に寝転んでいるあたしに彼は少しだけ目を見開くと、瞳が何か冷たいものを見るかのような色になった。
「えっ……どうした?何?今日やる気ない日?」
告白されたとき、彼は‘俺と結婚しようね’と言っていた。まだ18歳だったけれど、18歳の少女にとっては夢も希望も愛も理想もパンパンに詰まった甘い言葉だった。
‘おはよう’の代わりに返された言葉には、そのどれも入っていなかった。苦しいほどに膨らんで今にも破裂しそうなほどの残酷な現実でいっぱいになっていた。
嫌われたくなかった。
突き放されたくなかった。
彼なら受け入れてくれるだろうというのは、自分の勝手な理想で現実は自分の理想像とはかけ離れた、あたしを蔑む氷のような眼差しだった。
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