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ゆらゆら。きらきら。
子どもの時。水に潜って下から水面を眺めたら、光が煌めいて美しかった。目に映る家々や木々が水草のようにゆらめいて見える。どこからか泡が幾つも漂ってくる。
水の中なのに、空気のように息が吸える。
「人や動物はいるのか?」
タミヤがすっと、下を指さした。
揺らめく水の中に、くっきりと見える空間があった。光の帯のように切り取られ、細く蛇行していく。
「あれは?」
「あれは魚たちの川です」
「水の中に川?」
絨毯は、まっすぐに巨大な川に向かって下りていく。
川が近づくと、大小とりどりの魚たちが見えた。赤や黄色、青や茶と色も様々だ。
川に水はない。空気の中を自由に魚たちが泳いでいく。不思議な光景だった。
近くに行くと、たくさんの声が聞こえた。大小の声、囁きかわす声。どれも人間の声だ。
「タミヤ」
「しっ!ルオ様、声を出さないで」
絨毯は、空気の川をかき分けて進む。目の前に、城と大きな広場が見えた。
広場の真ん中に黄金色の魚がいた。光り輝く鱗、ひらひらとひらめく尾びれ。
そして。空気が震えた。
川に音が満ちていく。
金色の魚の歌が響き渡ると、空気の帯が目に見えて広がっていった。
広場の端で、タミヤと共に歌を聞く。
美しい声だった。
祈るように、高く低く、広場から歌が溢れていく。
「ここは昔、魔女の呪いを受けた国です。強欲な王が、魔女との約束を守らなかった。怒った魔女は国を水没させ、国民を全て魚に変えました。魔法使いたちは、今も力を合わせて魔法で国を覆っています。王子は、川を歌で守っているのです」
「王子?じゃあ、あの魚が⋯⋯」
「水の国の賢王子。父の不始末を身に受けて、歌いながら魔女への謝罪を続けています」
歌が終わり、絨毯が広場に到着する。タミヤが黄金の魚の前に立った。
「ごきげんよう、黄金の王子」
「ごきげんよう、外つ国からの客人」
魚の王子は優雅に尾びれを揺らす。
「早速ですが、お願いしたいことがあって参りました」
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