3.歌う魚

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「この国の中に入ってこられるのだから、其方も魔法使いだろう?呪われた国にどんな願いが?」 「呪いをその身に受けた者がおります。ライア・ヴァーレンの魔女の呪いを解きたいのです」  タミヤは、手の平の上に乗せた俺を差し出した。  魚の王子から、小さな笑い声が漏れた。 「これは、懐かしいものを見た」 「水の国の尊い御方。トカゲの姿ですが、私はルオと申します。魔道王国ジダの騎士にございます。呪いを解くために、魔女から3つの宝を持ち帰るように言われました。私と共にいらしてはいただけませんか?」 「馬鹿なことを言うな!」  王子の側に、たくさんの魚たちが集まっていた。  その中で赤くてひらひらした魚が、一際高い声で怒りだした。 「王子を何だと心得る!この国から出るだと!!」  魚たちが騒めきだす。  王子は、ひれを揺らして周りを止めた。 「騎士よ、見ての通り私は魚の姿だ。そして、私の歌がなければ、空気の川は消える。国民も息絶えることだろう」  王子は穏やかに語った。俺は、ごくりと息を飲む。  それじゃあ、王子を連れていくわけにはいかないじゃないか。 「1週間」  タミヤが言った。 「1週間だけ、国を出てはいただけませんか?王子の身代わりをご用意致します」  タミヤがパンパンと手を打ち鳴らした。  何もない空間に、黄金の魚がもう一匹浮かぶ。 「歌え」  タミヤが命じると、魚は王子と同じように歌い始めた。  空気の川が広がっていく。 「なんと!」 「これは⋯⋯」  魚たちが騒めいた。 「王子!騙されてはなりませぬ。こんなどこから来たかもわからぬもの!」  赤い魚が叫んだ。 「魔道王国ジダから参りました」  俺は叫んだ。出自くらいは主張したい。 「ジダは遥か昔から続く王国。ライア・ヴァーレンの魔女の名を知らぬものはない」  黄金の王子が呟いた。 「其方たちと共に行けば、魔女に会えるのだな」 「王子!!」  魚たちが戸惑ったように叫ぶ。 「行こう。ただし、本当に1週間で帰してもらえるのか」 「誓いましょう。使い魔タミヤの名にかけて」  タミヤは、王子に向かって嫣然(えんぜん)と微笑んだ。
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