4.雷竜の子

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4.雷竜の子

「水の国では空気の川の中にいたんだろう?なんで国の外の空気はダメなんだ?」  ふわふわと丸い玉が空中に浮いている。  タミヤが作り出した魔法の玉の中で、黄金の魚が優雅に泳ぐ。 「水の国の民が空気の川にいたのは、言葉や人の記憶を忘れないため。あの国は、緩和魔法で呪いから守られているんです」  タミヤが、俺を手の平に乗せて話す。 「外界に放せば、私達はただの魚」  黄金の王子が歌うように言った。 「外の空気の中では呼吸が出来ずに死ぬし、水に入れば記憶を失くす」 「ああ!だから、赤い魚はあんなに怒って⋯⋯」  王子が、頷くようにひれを動かす。 「あれは宰相の息子なのだ。心配性でね。幼い頃から、ずっと私の側に居たものだから」  赤い魚は、王子が行くなら自分も!と、散々叫んでいた。 「絨毯が定員を越えるので無理です」とタミヤにあっさり断られていたが。  王子を無事に返せなかったりしたら、あの魚に呪い殺される⋯⋯。  そう考えて、ぶるりと震えた。  もう、これ以上の呪いは勘弁してほしい。 「それにしても久しぶりだ」  玉がふわふわと絨毯の上を行き来する。  黄金の鱗とひれがきらめいて、嬉し気な様子を見せていた。 「自由に外の世界を見ることが出来るなんて、もうないかと思っていた」  空はどこまでも青く澄んで、太陽が輝いている。  はるか下には緑の森と茶色の大地が続く。  水の国はとっくに見えなくなっていた。  俺は水の国の様子を思い浮かべて、鼻の奥がツンとなった。  なんてきれいな世界なんだと見惚れていた自分はバカだった。  あの世界は必死の努力で守られていたのに。 「王子⋯⋯」  ドドーンンン!!!!  突然、空を裂くような音が鳴り響いた。 「見ろ!あれ!!!」  晴れ渡った空に、一点の染み。  見る間に、晴天に真っ黒な雲がむくむくと広がっていく。  雲の合間に金と銀、青の光が輝くのが見えた。 「雷雲!?」  目を丸くしている俺に、タミヤが言う。 「ルオ様、のん気にしてないで!」  尻尾を掴んで、タミヤは自分の胸元にぽいっと俺を入れようとした。 「うわわわ⋯⋯」  その時だった。  
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