2.離れ森の魔法使い

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   目をつぶって、もう一度開けた時には、見慣れたアールンの部屋の中にいた。  魔法書や魔道具が整然と並ぶ部屋は、几帳面な彼の性格がよくわかる。 「それで?」 「エドゥと一緒にいたところに、魔女の呪いを受けたんだが」  裸で云々⋯⋯は、ちょっと省略させていただいた。  アールンの長い爪が、机の上に乗った俺のしっぽをちょんちょん、と弄る。気になるからやめてほしい。 「大魔女リセリナが言うには、この呪いを解くには3つのお宝が必要だって言うんだ」 「ふぅん?」 「お宝を見つけてくれば、元の姿に戻してやるって」 「見つけて来られなかったら?」 「⋯⋯ずっと、このまま」  エドゥがどんなに泣いても叫んでも、リセリナは俺の体を元に戻してくれなかった。 「たった一つ。声だけは残しておいてやろう」  そう言って、真っ赤な爪の先で弾き飛ばされる。  次の瞬間には、俺は自宅の庭の芝生に落ちていた。  俺は草の中を走り、玄関前の階段をかけ上った。猫にでも捕まったら、ろくでもないことになる。ドアの下の隙間から、必死で家の中に入った。  俺の部屋に行けば、アールンの森に繋がる魔法陣がある。それだけが頼みの綱だ。  アールンは、二つ下の従兄弟(いとこ)だ。  妹と同じ年に生まれ、俺には妹と弟が一度に出来たようなものだった。  予言通り、人一倍強い魔力を持って生まれたアールンは、同じ年頃の子どもたちと遊ぶことが出来ない。  魔力の調整が出来ず、自分で自分の体に負荷をかけてしまう。幼い頃はしょっちゅう高熱を出し、魔力を暴発させた。森から出られないだけでなく、魔力を抑えるために屋敷に閉じこもりきりになった。  心配した俺たちの両親は、せめてと、年の近い俺をアールンに会わせた。  しかし、普通の人間は離れ森に入ることが出来ない。叔父の魔法使いは、森の屋敷と我が家を魔法陣で結んだのだ。 「おじさん、ここに入ればいいの?」 「そうだ、ルオ。陣の真ん中で、名前を呼ぶんだ。」 「名前を?わかった。大きな声で呼べばいいんだね!」  たった一言呼べばいい。  大きな声で、心を込めて。
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