2.離れ森の魔法使い

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  「ア──ル──ン!!」  名前を呼んだ途端、体は銀色の光に包まれる。  足元から渦を巻くように頭上に向かって輝く光の群れ。  小さなアールンは、いつもベッドで待っていた。  高い熱を出した時は、隣で手を握る。  魔力の暴発で怪我をした日は、本を読んだり、話をしたりする。  俺たちは、しょっちゅう一緒にいた。  成長するにつれて、アールンの体は少しずつ強くなり、魔法の修行に明け暮れた。  アールンが生きていくために、それは必要な事だったから。  トカゲになったせいなのか、いつものアールンの部屋の中には飛べなかった。  森の前に落ちた俺は、必死に従兄弟の名を呼んだ。  俺が呼べば、アールンは必ず来てくれる。  アールンの厚めの唇から、深いため息が出た。 「悪いが、ルオ。ライア・ヴァーレンの魔女の呪いは解けない」 「うん、わかってる。国の最高位の魔女だからな」  でも、この姿のままじゃ困る。  俺はもう一度、人間の姿でエドゥに会いたいんだ。  エドゥの泣き顔が浮かんで心が痛む。今頃、どうしているだろう。 「リセリナの呪いを返すほどの力は俺にはない⋯⋯。ただ」 「ただ?」  アールンは、黒く染めた爪の先を俺の頭にちょんと乗せた。 「呪いを軽くすることはできる」 「軽く?」 「そうだ。一日の内で数時間、人の姿に戻ることができるようにしよう。そうしたら、少しは宝も見つけやすくなるだろう」  数時間でも!人に戻ることができる!!  俺は嬉しかった。 「アールン!でも」  俺の頭にはいつも、魔力に泣いている幼いアールンの姿が浮かぶ。 「お前は大丈夫なのか?」 「心配しなくていい。これは呪いを返すわけじゃない。病が和らぐように、薬を与えるようなものだ」  アールンは見惚れるような笑顔で微笑んだ。 「それに、大事な従兄弟をトカゲに変えた礼はしないとな。魔女殿に」  アールンの金の瞳の中に小さな怒りの炎が灯る。  トカゲになっていた俺の目では、それに気づくことは出来なかった。
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