3.歌う魚

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 ゆらゆら。きらきら。  子どもの時。水に潜って下から水面を眺めたら、光が煌めいて美しかった。目に映る家々や木々が水草のようにゆらめいて見える。どこからか泡が幾つも漂ってくる。  水の中なのに、空気のように息が吸える。 「人や動物はいるのか?」  タミヤがすっと、下を指さした。  揺らめく水の中に、くっきりと見える空間があった。光の帯のように切り取られ、細く蛇行していく。 「あれは?」 「あれは魚たちの川です」 「水の中に川?」  絨毯は、まっすぐに巨大な川に向かって下りていく。  川が近づくと、大小とりどりの魚たちが見えた。赤や黄色、青や茶と色も様々だ。  川に水はない。空気の中を自由に魚たちが泳いでいく。不思議な光景だった。  近くに行くと、たくさんの声が聞こえた。大小の声、囁きかわす声。どれも人間の声だ。 「タミヤ」 「しっ!ルオ様、声を出さないで」  絨毯は、空気の川をかき分けて進む。目の前に、城と大きな広場が見えた。  広場の真ん中に黄金色の魚がいた。光り輝く鱗、ひらひらとひらめく尾びれ。  そして。空気が震えた。  川に音が満ちていく。  金色の魚の歌が響き渡ると、空気の帯が目に見えて広がっていった。    広場の端で、タミヤと共に歌を聞く。  美しい声だった。  祈るように、高く低く、広場から歌が溢れていく。 「ここは昔、魔女の呪いを受けた国です。強欲な王が、魔女との約束を守らなかった。怒った魔女は国を水没させ、国民を全て魚に変えました。魔法使いたちは、今も力を合わせて魔法で国を覆っています。王子は、川を歌で守っているのです」 「王子?じゃあ、あの魚が⋯⋯」 「水の国の賢王子。父の不始末を身に受けて、歌いながら魔女への謝罪を続けています」  歌が終わり、絨毯が広場に到着する。タミヤが黄金の魚の前に立った。 「ごきげんよう、黄金の王子」 「ごきげんよう、()つ国からの客人」  魚の王子は優雅に尾びれを揺らす。 「早速ですが、お願いしたいことがあって参りました」
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