01:アルトサックス奏者の死は突然に

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01:アルトサックス奏者の死は突然に

 今日、私は高校生活をかけた大一番に挑もうとしていた。  そう、全国大会に。 「奏音(かなね)、絶対金賞取ろうね!」 「もちろん! お互いソロ頑張ろ!」  私は出雲(いずも)奏音(かなね)。吹奏楽部でサックスパートのリーダーだ。ホントは部長になりたかったけど、その場しのぎな考え方のせいでできなかった、いわゆるなりそこないである。  今話しかけてきたのは、トランペットパートのリーダー。  中学生の時からの親友で、彼女も今日の日を夢見て練習に励んできた仲間である。  吹奏楽部人生 六年間の、集大成の日なのだ。  朝の八時半。昨日から泊まりがけで、ここの全日本大会の会場に来ている。正直眠い。なぜこんなに早く会場入りしなければならなかったのかと言うと……  私の学校はトップバッターで演奏するからである。  しかも、審査員は最初に演奏する学校を基準にする(らしい)ので、金賞をとるには不利だとされている。最悪だ。 「……無意識でも勝手に指が動くぐらい、めちゃくちゃ練習したから。大丈夫」  いつもの制服とは違い、コンクールや定期演奏会の時に着る衣装をまとっているので、気が引き締まる。  このえんじ色のジャケットに黒い(ちょう)ネクタイ、これを着るのも今日で最後か……。  私は相棒のアルトサックスを持って立ち上がった。
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