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私はリリーに楽器を持ってこさせ、自分の部屋に招き入れる。
何週間かぶりに、壁に立てかけてあるケースを開く時が来た。
「久しぶり」
私が毒に倒れた後、リリーがベルに言って楽器を持って帰らせていた。「お姉ちゃん、サックスと一緒じゃないと死んじゃうかも」と。
私が目覚めることができたのは、もしかしたらこのサックスのおかげかもしれないよね。
ストラップをつけてから、サックスという名の相棒を組み立てる。金属製のほどよい重量感。その重みを手と首で感じる。
「できそう?」
「うーん、久しぶりだからやばそうだけど。やってみるね」
まずは先端の、黒いマウスピースだけで音を出す練習。
くわえただけで口の筋肉が鈍っているのが分かる。だがとりあえず吹いてみる。
ピィーーッ
できた。思わず嬉しくなってしまった。
私は、マウスピースと楽器本体をつなぐ『ネック』という部分にマウスピースをつけて吹いてみる。
…………できた。
「よしじゃあリリー、ついにこれを本体につけて吹くよ」
「うん、リリーと一緒にやろ!」
ネジでしっかりネックを固定してから、リリーと同時にマウスピースをくわえ、同時に息を吸い、同時にサックスの『ソ』の音を出した。
二人の音が重なった。だがまるで一つの楽器が吹いていると錯覚するほど、音のズレがほとんどない。
「思ってたより悪くないね」
宮廷音楽家 復活の兆しが、少しだけ見えた気がした。
「リリー、じゃあロングトーンやってみようか」
「うん!」
吹奏楽の基礎中の基礎、吹く時に音程がブレず、ハッキリと長く出す練習をリリーに奨める。
しかしいざやってみると、息継ぎなしで最高で十六秒間吹けていたものが、たった五、六秒で苦しくなってしまった。
「はぁ! やっぱダメだぁー」
リリーは、初心者の合格ラインである八秒間を、しっかり吹ききっている。
リリーに負けるのは正直屈辱でしかない。
「よし、驚くほどの早さで復活して、みんなをびっくりさせてやる!」
「お姉ちゃんがんばれ!」
リリーの応援に心ゆくまで癒されながら、私はもう一度マウスピースをくわえた。
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