36:宰相 兼 宮廷音楽家、復活の前触れか!?

5/5
前へ
/217ページ
次へ
 私はリリーに楽器を持ってこさせ、自分の部屋に招き入れる。  何週間かぶりに、壁に立てかけてあるケースを開く時が来た。 「久しぶり」  私が毒に倒れた後、リリーがベルに言って楽器を持って帰らせていた。「お姉ちゃん、サックスと一緒じゃないと死んじゃうかも」と。  私が目覚めることができたのは、もしかしたらこのサックスのおかげかもしれないよね。  ストラップをつけてから、サックスという名の相棒を組み立てる。金属製のほどよい重量感。その重みを手と首で感じる。 「できそう?」 「うーん、久しぶりだからやばそうだけど。やってみるね」  まずは先端の、黒いマウスピースだけで音を出す練習。  くわえただけで口の筋肉が鈍っているのが分かる。だがとりあえず吹いてみる。  ピィーーッ  できた。思わず嬉しくなってしまった。  私は、マウスピースと楽器本体をつなぐ『ネック』という部分にマウスピースをつけて吹いてみる。  …………できた。 「よしじゃあリリー、ついにこれを本体につけて吹くよ」 「うん、リリーと一緒にやろ!」  ネジでしっかりネックを固定してから、リリーと同時にマウスピースをくわえ、同時に息を吸い、同時にサックスの『ソ』の音を出した。  二人の音が重なった。だがまるで一つの楽器が吹いていると錯覚するほど、音のズレがほとんどない。 「思ってたより悪くないね」  宮廷音楽家 復活の兆しが、少しだけ見えた気がした。 「リリー、じゃあロングトーンやってみようか」 「うん!」  吹奏楽の基礎中の基礎、吹く時に音程がブレず、ハッキリと長く出す練習をリリーに奨める。  しかしいざやってみると、息継ぎなしで最高で十六秒間吹けていたものが、たった五、六秒で苦しくなってしまった。 「はぁ! やっぱダメだぁー」  リリーは、初心者の合格ラインである八秒間を、しっかり吹ききっている。  リリーに負けるのは正直屈辱でしかない。 「よし、驚くほどの早さで復活して、みんなをびっくりさせてやる!」 「お姉ちゃんがんばれ!」  リリーの応援に心ゆくまで癒されながら、私はもう一度マウスピースをくわえた。
/217ページ

最初のコメントを投稿しよう!

137人が本棚に入れています
本棚に追加