01:アルトサックス奏者の死は突然に

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 見つけてしまった。  おい……マジかよ、こんな忘れ物するか? うちの学校名が書いてあるし、明らかにパーカス(パーカッション)の忘れ物だよね?  丁字型の金属製の物体。これは確か、ティンパニをチューニングする時に使うやつだったような。  みんなでまとめて置いてあるバッグの塊から見つけた。パーカス、ちゃんとしてよ……。 「先生、これ、パーカスの方に届けに行ってきます」 「ああ、急いで」  私の手の中にあるものを見た顧問は、小さくため息をつく。今ごろないないと探しているに違いない。  首にかけたストラップ(サックスは金属製で重たいので、首でも支えられるようにする道具)から、相棒の楽器をぶら下げたまま、私は早歩きで荷物置き場の部屋を飛び出した。  楽器を誰かに預ければよかったと後悔するが、もう遅い。 『関係者以外立入禁止』のドアからステージの裏側にまわり、打楽器の群れが見えて私はほっとした。 「忘れ物っ!」 「あぁっ、あった! ありがとうございます!!」  少し息を切らし、変に早歩きしたせいでふくらはぎが痛みつつも、私は後輩に握らせるように手渡した。まだ開会式まで時間があるようなので、間に合ってよかった。  ふとステージに目をやると、イスが並べられている最中であった。 「あと三つ持ってきて!」  スタッフがこちらに走ってくる。私の後ろには身長をゆうに越える高さでイスが積まれていた。積まれている荷台はキャスターつきで、積み上げたものが崩れないよう囲いがついている。いや……上の方は囲いからはみ出ているのだが。 「こいつから取るのか……」  その人は「脚立、脚立」とどこかへ行ってしまった。  イス並べの人の他にも、舞台裏では何人もの人がせわしなく往来している。 「さっき行ったばっかなのに……先輩、トイレどこでしたっけ?」  腕時計をしている後輩が同じパートの先輩に尋ねる。  緊張してトイレ近いのかな? ふふっ、かわいい。 「そこのドアから出て右に曲がったところにあった気がする」 「ありがとうございます!」  コンクールの日は別行動になるパーカスの裏側を、少しでも見られただけで笑みがこぼれる私。 「じゃあそろそろ私も戻るね。またあとで〜」 「奏音先輩、本当にありがとうございました!」 「いえいえ〜」  私は右手を振ると、トイレに行く後輩に続いて歩き出した。  その時だった。
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