短編 ただの音楽バカにはなりたくない

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短編 ただの音楽バカにはなりたくない

 ……暑い。今日こんなに暑くなるって言ってたっけ?  私はアルトサックスのケースを背負い、楽譜が入ったファイルや、音合わせの時に使うチューナー、その他もろもろが入ったバッグを手に電車に乗りこんだ。  電車の中を巡る冷たい風が、心地よく体を冷やしてくれる。  県大会のほぼ一か月前の今日は、期末テストのテスト休みに入る最後の練習日である。  私は部長に立候補したがなれなかった上に、既に副部長も希望者多数だったため、学生指揮者というものになった。  この学生指揮者の経験が、まさか死んだ後で発揮されるとは思ってもいなかったけど。 「あっ、奏音(かなね)〜! 一緒に行こ!」  ちょうど同じ時間の電車を使う、トランペットパートのリーダー。高校からのつき合いだが、今や親友と呼べるほど仲良しである。 「ねぇねぇ、昨日のあれ見た?」 「見た見た! もう、めっちゃかっこよかったよね!」  好きなアイドルの推しを語り合い、情報交換をし合い、時には一緒にライブにも行く。推しの取り合いにならないのは、互いに互いの意見を尊重しているからだろうと、私は思っている。
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