01:アルトサックス奏者の死は突然に

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「あっ」  スタッフが担いでいた一本の棒が、立てかけてある何枚かの巨大な木の板に触れてしまった。あの大きさからして、ステージのひな壇のものだろう。  ぐらっと傾き、高く積まれたイスにバキバキッと音を立てて接触する。  その真横を目の前を歩く後輩が通ろうとしていた! 「逃げてっ!!」  私は楽器をぶら下げていることも忘れ、脇目も振らずスタートダッシュを決めた。  巨大板にぶつかったイスの塔は、上の方から順に崩れ落ちてこちらに振りかかっている。  ああ、このイスの雨の向こう側には行けなさそう。タイミング的に。  私は後輩の背中を思いっきり押した。自分も通り抜けたかったけど、手をのばして後輩を助けるだけで精一杯。 「きゃぁぁぁああっ!」  部員の悲鳴が聞こえた瞬間、私の体はイスの雪崩によって地面に打ちつけられた。金属と金属がぶつかるような音もする。私の相棒、ベッコベコになっちゃっただろうなぁ。  グサッ  頭に激痛と振動とともに何かがつき刺さった。横目で見ると、あの木の板だった。 「おい、出雲!」 「奏音先輩っ!!」  部員の泣き叫ぶ声がだんだんと遠くなっていく。床に接している面にじわりと温かいものが広がっている。  私は察した。ここで死ぬんだと。 「しっかりしてください!」  ごめんね。この木の板、私に致命傷を()らわせたみたい。よりによって頭の後ろ。最悪だ。  私は目を閉じた。  走馬灯のBGMは、私が吹くはずだったアルトサックスのソロが飾っている。  決してうちは裕福じゃなかったけど、何とかお願いしてサックスを買ってもらったんだよね。プロになってお金持ちになって、この分以上に親孝行するから! って。  音大行って、一人前になりたかったのに……。  意識は闇の底の底へと落ちていった。
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