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「あっ」
スタッフが担いでいた一本の棒が、立てかけてある何枚かの巨大な木の板に触れてしまった。あの大きさからして、ステージのひな壇のものだろう。
ぐらっと傾き、高く積まれたイスにバキバキッと音を立てて接触する。
その真横を目の前を歩く後輩が通ろうとしていた!
「逃げてっ!!」
私は楽器をぶら下げていることも忘れ、脇目も振らずスタートダッシュを決めた。
巨大板にぶつかったイスの塔は、上の方から順に崩れ落ちてこちらに振りかかっている。
ああ、このイスの雨の向こう側には行けなさそう。タイミング的に。
私は後輩の背中を思いっきり押した。自分も通り抜けたかったけど、手をのばして後輩を助けるだけで精一杯。
「きゃぁぁぁああっ!」
部員の悲鳴が聞こえた瞬間、私の体はイスの雪崩によって地面に打ちつけられた。金属と金属がぶつかるような音もする。私の相棒、ベッコベコになっちゃっただろうなぁ。
グサッ
頭に激痛と振動とともに何かがつき刺さった。横目で見ると、あの木の板だった。
「おい、出雲!」
「奏音先輩っ!!」
部員の泣き叫ぶ声がだんだんと遠くなっていく。床に接している面にじわりと温かいものが広がっている。
私は察した。ここで死ぬんだと。
「しっかりしてください!」
ごめんね。この木の板、私に致命傷を喰らわせたみたい。よりによって頭の後ろ。最悪だ。
私は目を閉じた。
走馬灯のBGMは、私が吹くはずだったアルトサックスのソロが飾っている。
決してうちは裕福じゃなかったけど、何とかお願いしてサックスを買ってもらったんだよね。プロになってお金持ちになって、この分以上に親孝行するから! って。
音大行って、一人前になりたかったのに……。
意識は闇の底の底へと落ちていった。
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