花患い

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夢から醒めても、まだ眠っている感覚。 「扉が開いてる…?」 その日は唐突に訪れた。 こちらからは開けられないはずの電子扉のロックが解錠されていた。私は暫く迷った。何かの罠かもしれないし、下手な行動をして白田医師が責任を問われても嫌だった。反発する時はあっても、彼は唯一の理解者であったから。いなくなるのは困る、そう思った。 「白田先生?」 私はいつものように問い掛けるが、いつまで待ってもスピーカーから返答は無かった。 次第に胸が早鐘を打った。痛覚も無い、食事をしばらくとらなくても平気な身体になって随分だが、心臓はまだその機能を果たしているらしい。 私は恐る恐る、扉から顔を覗かせた。 数名の監視員が見張っているはずの隣室には人は居らず、代わりのように樹木が数本、床のタイルを砕き根付いていた。 それは人に蕾がついて以来の異様な光景だった。 厳かで清潔なはずの研究施設が、一晩で廃墟になってしまったようだった。 風も無いのに揺れる樹木の枝葉の先に、何故か人の衣服が引っ掛かっている。 不思議と視線を奪われ、その異様な光景を眺めてしまった。けれどいつまで 経っても私の行動を咎める人物は訪れなかった。 私は白田医師に会いたくなっていた。いつもなら検査の時間だ。 慣らされた習慣に、私は足を動かした。施設を歩き回るのは初めてだったから、開けられる扉全て開けて回る事に決めた。
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