花患い

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この現実が本当は夢だったとしても、それを現実と認識している私には夢が現実になりえるのだ。 どこの部屋もそう大きく変わらなかった。 大小様々な木々が施設内に生えていて、場所によっては通路の真ん中を陣取るように存在していた。 何故室内に木が生えているのか。そんな疑問を持てない程、その存在感と生い茂る数は多かった。そしていくら探しても、白田医師どころか人っ子一人見つからない。 開けた場所に出ると、壁に施設の館内図が貼ってあった。 人を求め、施設の出入り口に向かう事にした。 静寂。それ以外の表現が出来なかった。 ただ時折、私が横切ると風もないのに廊下の木々の葉が大きく揺れた。不思議だった。 けれどそれ以外に変化はないので、立ち止まっていられなかった。 「大きな木…」 思わず呟いていた。もうすぐ出入り口という所で、大きな木の幹が完全に通路を塞いでしまっていた。壁一杯まで成長した枝葉は出口に腕を伸ばしているように見えた。…あり得ない事ばかりで、私も疲れているのかもしれない。木が人に見えるなんて。 人がいない、植物に侵された施設。流石に私にもかなりの異常事態が起きている事は分かる。外の世界は一体どうなっているのだろう。ただその気持ちだけだった。外に出たい。私はその一心で屋上への階段を上り始めた。
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