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もう一度交わる日
学校帰り、駅前の古着屋さんの前にたむろす一団の中に彼の姿を見つけて、私は息が止まりそうになった。
ダボッとしたシルエットの服に、帽子の端から覗くほぼ金髪と言っていいぐらいに脱色した短い髪。私の記憶にある彼の姿とはかけ離れてしまっていたけれど、白い歯を見せて笑うビッグスマイルに辛うじて当時の面影が残っていた。
彼と談笑するのはいずれも一様に体格の良い、明るい髪色の人達だった。周囲なんてお構いなしにゲラゲラと談笑していて、くわえ煙草から立ち上る煙に、道行くスーツ姿の人は不快そうに顔をしかめていた。
「美憂、どうしたの?」
「……あ、ううん。なんでもない」
瑠香は私の袖を引いて歩き出した後、ちらりとさっきのガラの悪い集団を盗み見て、声を潜めるように言った。
「ああいう人達はジロジロ見ちゃ駄目だよ。何されるかわからないよ」
二年になって仲良くなった瑠香は一年の時は違うクラスだったから、事件そのものは聞いた事があっても、彼の事はよく知らないのだ。
そんな彼女の口から出た言葉が、私の胸にチクリと突き刺さる。
髪を染めて、普通ならみんなが仕事や学校に行っている時間に、街中でちゃらちゃらして。チンピラ、半グレ、DQN……瑠香の言うああいう人、というのは言葉を変えればそういう意味になるのだろう。
学校を辞めた彼が悪い連中と遊び歩いているという噂を聞いた時にも少なからずショックを受けたけれど、実際のこの目で見てしまった衝撃は言葉には言い表せないものがあった。
「どうしたの? なんか変じゃない?」
「ううん。あ、でもやっぱりなんだか調子が悪いかも。ごめん瑠香、今日はやめにしてもいい? また今度、付き合うから」
「大丈夫、顔真っ青だよ? 全然気にしなくていいから、早く帰って休んだ方がいいよ。一人で帰れる?」
瑠香と別れた後、トイレの個室に駆け込んだ瞬間、我慢していた涙が一気にあふれ出した。漏れそうになる声を必死で堪え、絞れそうなぐらいハンカチをびしょ濡れにしながら、私は一人で泣き続けた。
私のせいで。
変わり果てた彼の姿が、脳裏によみがえる。
彼だと気づいたにも関わらず、声すら掛ける事のできなかった自分の愚かさが歯がゆかった。片時も忘れた事はなく、毎日のように会いたいと願い、夢にまで繰り返し見た相手だというのに。
彼――香川秀哉の人生をあんな風に歪めてしまったのは私の責任なのだと思うと、どんなに泣いても涙が止まる事はなかった。
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