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あの夫と暮らしていたマンションに比べると狭く感じられる1DK。娘が大きくなってから自分の部屋が欲しいと言い出さぬか不安はあるが……、娘はまだゼロ歳。成長してからのことはそれから考えればいい。借り手がシングルマザーだと例えば一人暮らしを開始する大学生と同じようには行かない。こんな自分に部屋を貸してくれる家主が見つかっただけでラッキーであり、聡美は当面の生活を確保することを優先した。
角部屋であるゆえ壁の一面が冷えている。彼女はリモコンを操作し、暖房を強くした。まだまだやることが残っている。だがひとりではない。彼女には命と引き換えにしていいくらいの大切な、愛おしい存在が居る。眠る我が子を安らかな眼差しで彼女は見守る。
かけがえのない娘を捨て自由と孤独を選んだあの男。
今頃なにをしているだろうか。
後悔に打ちのめされているとか? ……まさかまさか。あのひとは最後まで自分の愚行を理解せぬままだった。
時間を二ヶ月前の、2013年11月に巻き戻す。
――なにを間違えてこんなことになってしまったのだろう。
聡美は涙が出るのをこらえ、胸の奥から込みあげる言い知れぬ感情と向き合う。
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