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自分に男を見る目がなかったと言われればそれだけの話だ。だがしかし……。
腕のなかで懸命に何かを訴える我が子。
こんなにも愛おしいか弱い存在に見向きもしないだなんて……。
いったいあのひとはどうしてしまったのだろう。
リビングにて生後六ヶ月の泣き止まぬ赤子を抱っこする聡美は途方に暮れる。おむつ。おっぱい。全部あげても赤ちゃんというものは常時泣き続ける。可愛い顔を見せるのなど一瞬だ。彼女が見やるのは廊下の奥の閉じられた一室のドア。あそこから閉じこもったままいつもあのひとは出てこない。家に居る間はずっと……。
誰よりも大切なはずの我が子そして愛妻を無視して彼が没頭するのは――オンラインゲーム。WiiU版がこの九ヶ月前に発売されたばかりらしく。大学時代の友人に勧められて彼も始めたところ――起きている時間のほとんどをゲームに注ぎ込む徹底ぶりだ。
その没頭ぶりがあまりに異様なので彼女は夫の一日の行動を日記に書き留めたことがある。――
起床。五時。トイレに行き寝室でゲーム。
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