足りないモノを君に求めてしまうけれど――。

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足りないモノを君に求めてしまうけれど――。

―――――――――――――― 拝啓、追われ奪われる側に居る皆様へ。皆様は、アサシンと呼ばれる存在を御存じだろうか?暗殺者、暗殺団、刺客という意味で用要られる単語なのだそうだ。 簡単に言うと、皆様が追われ奪われる側だとするのなら、私は追い立て奪う者という事。それが言うところのアサシンというものです。 ―――――――――――――― 雲間から顔を覗かせた僅かな月光に照らされて、夜露に濡れた岩肌が怪しげな煌めきを見せる。その僅かな明かりに照らし出されて浮かび上がった男は、恐怖に顔を歪めた髭面の中年に歩み寄った。 「何なんだよテメェは!」 髭面の中年は汗ばんだ手を地面に伸ばして砂を掴み、その砂を男に向って投げ付けた。男の方は物の見事に顔で砂を受け止めてしまったが、この薄ら闇の中では最初から中年男の姿など見えて居ないに等しい。 見ずとも、見えずとも、瞳というフィルターを通さずとも標的の動きは捉える事が出来る。その息使いや鼓動、逃げる為に必死な兎は自らの足音の大きさを知らない。 中年男の死に際の悲鳴は、断末魔というよりも隙間風のような声だったか――命を奪った後の夜は耳鳴りがするほど静かで、その静寂を楽しむかのように男は笑って居た。
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