悪役令嬢のお仕事

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悪役令嬢のお仕事

 私の足元には短剣で自害した王子様が横たわっている。原因は勿論私だ。  数ヵ月前に相思相愛でもうすぐ結婚式をあげるはずだった玉の輿の平民娘から横恋慕して、王子様を私に靡かせ破局させてからのネタバラすると、彼は失意の末に自ら命を絶ってしまったのだ。  何故私がそんな酷い事をしたのかと言えば、派遣されたからだ。そう、この世界は私の居る地球とは違う異世界。  私は悪役令嬢として異世界に召喚され、依頼主が望む残酷な未来を叶えるべく奮闘した結果がコレである。  破局した平民娘は奴隷となって他国に売り飛ばされ、依頼主は序列が上がって王位継承権を手にいれた模様。  暗殺されるのは国の対面が悪いと、搦め手で王子様を亡き者にした訳だ。  余韻に浸る間も無く足元に魔方陣が現れた。この異世界での以来が完了した証だ。室内が足元から照らし出されて、暗かった寝室が明るくなり鏡に写る異世界での私の姿がハッキリと見えた。  容姿端麗、きらびやかなドレスと金色に輝く長い髪に縦ロールのザ・悪役令嬢姿が其処にはあった。  自分では絶対に整えられない髪型、独りでは着れないドレス。毎日の優雅な生活。侍女は二桁、執事も当たり前の様に側に控えて、外を出る時は馬車で移動。  城下町を独りでは絶対に歩かない。護衛は凄腕の騎士達。自らが金を払う事はない。悪役令嬢の仮初の親が爵位持ちだからツケが利く。  仮初の親は依頼主とは裏で取り引をしており、王位に就いた暁には宰相に召し抱えて貰えるらしい。絶対に証拠隠滅で金で雇った暗殺者に襲わせて殺されるだろうけれど。  魔方陣が消えると、私は異世界から地球に戻って来た。景色は会社の見慣れたオフィスだ。 「お帰り、今回も無事依頼を完了した様だね」  私の上司にあたるサングラスをかけた銀髪の美女が出迎えてくれた。赤いスーツ姿が髪の色を引き立たせている。 「只今戻りました。滞在期間が長いと元の身体に違和感があってしょうがないですね」  黒髪黒目のごく普通な日本人顔。髪もストレートで後ろで束ね、服もリクルートスーツで外を歩けば社会の影に埋もれる存在。それが今の私の姿。  それからすると、銀髪の美女はサングラスで目を隠していても絶世の美女であると解る程。この人間違いなく日本人じゃない。後耳長いし。 「異世界での姿は現地に適した容姿に自動で変換されるから、確かに違和感は出るでしょうけれど、その時の姿も貴女なのよ」  異世界でも地球でも魂は同じらしく、入れ物の形が少し変わっただけらしいが、私からすれば豹変しすぎなのだ。  この会社に入社して一年。殆んどが異世界生活で現代社会が恋しくなる位に異世界は時代遅れで不便なのだ。まあ、異世界では魔法が使えるので多少は嬉しかったりするのだけれど。 「報酬は何時もの様に銀行振込しておいたわよ。帰りに確認して頂戴」 「判りました。今日はこれで失礼します。インターバルの休暇は一週間で良いんですよね?」 「ええ。次の依頼を受けて貰うには、少なくとも数日は空けないと、魂が定着しなくなっちゃうから」  地球と異世界を時間を空けずに何度も行き来すると、魂が肉体から離れやすくなり幽体離脱してしまうのだとか。恐いから絶対に休みますよ。  他の社員とすれ違う事なく会社から外に出て、近くのコンビニで預金残高を確認してから自宅に帰る私は、タクシーの座席で外の景色を見ながら一年前の出来事を思い出していた。
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