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二十五歳の春、私はこの街を離れる。
長年勤めた職場を辞め、北海道の地に再就職先を決めた。
子供の頃から動物が好きだった私の夢が、少しだけ叶うそんな場所を求めて。
あの雨の日以降、私と結太の密会はなくなった。
密会はなくなっても、二人はお互いを避ける事はできない。
それは近所で、毎日顔を合わす習慣は変わらないから。
好きな気持ちも、愛しているの気持ちも、宙ぶらりんで風船のよう。
だから、私は、結太のため、自分のために、ここから離れる事を決めた。
そして、今日は、結太と久しぶりのデート。
ダメもとでお願いしたら、快く応じてくれた。
春の季節によく行った公園に車で向かう。
桜が綺麗な今の季節、その公園にも一本だけ桜の木があった。
その場所に決めた。
卒業式に桜はつきものだから。
人気のない公園で、私は結太の写真をたくさん撮った。
以前と変わらない明るさで、結太はいつもの穏やかな笑みを浮かべてくれる。
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