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暫くたわいのない話をし、すっかりお茶も冷めた頃、理瀬はそろそろ仕事に戻るからと店を出た。
「ご馳走様でした」
「どういたしまして。楽しく過ごせたから、俺こそありがとうだよ」
「楽しかったなら、よかったです。それでは」
理瀬はお礼を告げ、すぐにと立ち去ろうとすると、またしても稔麿が手を掴んで引き止めてきた。
思わず眉を顰め振り返る。
「なんでしょう?」
「三条大橋の川原」
「え?」
「また旅籠屋で待ち合わせも変でしょ。明日は、そうだね…昼の鐘がなる頃、川原にいるから」
「は?なにを勝手に…」
「また明日ね」
稔麿は一方的に話を進め、雨の日と同じように理瀬の返事を待たずに踵を返し去っていく。
雨の音でかき消されることもないので、声を出して呼べば引き止められたかもしれない。
けれど、理瀬は呆然と立ち尽くし、呼び止めるのも忘れて去っていく稔麿の背を大人しく見送ってしまった。
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