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言いたいことも言えないこんな世の中で
ここはとある国の外れにある村
とある人は陽気に歌い、とある人は酒場でくだを巻いていた。
「ったくよー、最近税金が高くてやってられねえぜ」
「全くだ。役人の奴ら搾るだけ搾り取りやがって、こっちは生活出来ねえぜ。」
「しかもここいらで謎の疫病が流行ってるらしいしな。明日生きてるかもわからねえ時代になっちまった。」
酒場でいかつい男3人が昼間から酒を引っ掛けながら愚痴をこぼしていた。
「うい~、飲みすぎた……。ちょいとしょんべん……。」
3人のうちの1人が席を立った時、男の足に何かがぶつかった。
「いってえな!!んなとこ座ってんじゃねえ!!」
男が怒鳴る先にはぼろぼろのマントを羽織った一人の旅人がいた。名はチョコレート・ブラウニー。ブラウニーは男に蹴られても怒鳴られても、床に座り込んで体をふるふると震わせるだけだった。
「お、おい、こいつ様子がおかしくねえか?」
「まさか、噂の疫病か!?」
「な、なんだと!?」
店中がたちまち騒ぎになった。
「きゃー!!!早く外に出なきゃ!!」
「役人を呼べ!!監禁しろ!!」
「いやー!!死にたくないいい!!」
狭い空間の中は阿鼻叫喚。あるものは店から転がるように逃げ出し、あるものは役所に電話を掛けようと電話の周りに群がっていた。
そんな騒ぎの中、ブラウニーは蚊の泣くような声で「僕の……」と口にした。
「しゃべるんじゃねえ!!うつるだろうがが!!」
「僕の……」
顔を上げたブラウニーは涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていた。
「僕のチョコレートアイスがああああ!!!」
ブラウニーは大声を上げてわんわん泣き始めた。足元には床にべちょりと落ちて無惨な形に変貌したチョコレートアイスがしみついている。
「さーて、便所どこだったかな」
「奥んとこ左だぜ」
「でよー、カミさんが最近ひでーのよ。」
店内には何事もなかったかのように活気が戻った。
ここはとある国の外れにある村
とある人は陽気に歌い、とある人は酒場でくだを巻いていた。
そしてとある旅人は、大好物を床に落として世界の終わりのように嘆いていた。
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