① 2月の江蓮は、チョコレート職人

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 しかし、今年のバレンタインがこれまでと違うのは、今回の天音には彼氏がいるってところだ。  うちの犬彦さんはなんか知らないけど、天音は俺のカノジョなんだと思い込んでいる。(非常に迷惑な話だ)  だけど俺と天音は、幼稚園からの腐れ縁的な友達ってだけで(いや、友達…っていうのとも、なんとなく感覚が違うんだけど、まあいいや)お互いにそういう恋愛感情はない。  で、その天音の彼氏ってやつは俺も知っている人物であり、俺はそいつのことがあまり好きじゃない、むこうからしてもそうだろうけど。  相手から告白されて、天音はそいつと付き合うことになったんだけど、そうなる前まで俺は、相手の男からやたら敵意を持たれて絡まれて、すっごく面倒な思いをした、だからあいつはわりと嫌だ。  幼なじみで、もはや遠慮がないもんだから、傍から見ると俺と天音の距離は超近く感じるらしく、つまり俺はそいつから勝手に嫉妬されてウザい目に遭っていたということで…そりゃあ超迷惑したもんだった。  今となっては両思いということで、一気にヤツの雰囲気はハッピーモードへと変わり、俺にウザがらみしてくることはなくなったんだけど…俺からしたらマジ迷惑だわ、俺に関係なく勝手に片思いして勝手に両思いになって勝手にバレンタインチョコのやり取りすればいいだろうが、俺の知らないところで。  ぶつぶつ文句を言いながらも、手際のいい俺のおかげで(やはり天音はほとんど何もしない)チョコレート菓子はほぼ完成した状態になった。  チョコの一部はバットに流し込み、あるものはいくつもの型に入れ、ココアパウダーを振ったり、アーモンドやクルミやドライフルーツを乗せたり、とにかくそうして形を整えたところで冷蔵庫へしまう。  ふう、これでとりあえずは一安心。  お菓子作りの達成感を概ね味わったところで、天音は満足したのか(チョコの上にクルミ乗せるとか、簡単なことしかしてないくせに)キッチンから出るとリビングのソファーに座って黙々と、どうぶつの森をし始めた。  なんなんだよアイツ…と思ったけど俺は、キッチンのシンクで積み上げられているお菓子作りの過程で使用された、汚れた道具類を洗うことにした。  いくつものボウル、ゴムベラ、お皿にまな板に包丁、お箸やスプーン、使ったものをこのまま放置していては、天音のお母さんに申し訳ないので(天音のお母さんは今お出かけ中だ)俺は、ボウルにこびりついたチョコレートを指ですくってなめたりしつつ(犬彦さんに見つかったらぜったい怒られるやつ、行儀が悪いぞって)順番に道具を洗って並べていく。  
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