① 2月の江蓮は、チョコレート職人

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   「天音、それ犬彦さんの分だろ」  毎年恒例、わかりやすい天音の特別扱い。    全体的に、いくつものチョコレートたちは綺麗に出来上がってるんだけど、それでもよく見ると、少しだけ形が歪んでいるものがある、あるいは他と比べてちょっぴり小ぶりだったりとか。  機械で量産してるわけじゃないので、そんなの当たり前なんだけど、とにかく天音はそれなりに個性を抱えたチョコレートたちの中から、とびきり上出来なのだけを選んで(バランスよく美しい形、大きめのもの)たったひとつの小箱にだけ詰めていく。  いちばん大好きで特別なひとのために、いちばん良いチョコをとっといているのだ。  つまりは、犬彦さんのために。  「おま…マジでそういうとこだぞ!  いくつもある中から、犬彦さんの分だけは特別にいいやつで作ろうとして!  せめて、そういうエコヒイキは彼氏に対してしてやれよ!」  つーんと無視している天音。  毎年のこととはいえ、サイテーだよこいつ。  犬彦さんにあげる分だけ特別に気合を入れてプレゼント包装し、そのあと普通に大量の友チョコをラッピングしていったら、最後に残った不揃いなチョコたちで、天音のお父さんと俺の分のバレンタインチョコを形ばかり作るのだコイツは。  今年はそこに彼氏の分が、新しくプラスされてるってわけ。(ちなみに彼氏の分のチョコは、犬彦さんのためにいちばん美味しそうなチョコが選抜され、綺麗にラッピング完了後の次に用意されていた、つまり天音の中では2番目に優遇されていることになる)  そうして犬彦さんと彼氏の分のラッピングが終わると、次に天音は、友チョコ作りに取りかかる。  これはもう、とにかく量をこなすための自動作業みたいなものなので、ここからは俺も作業に参戦する。(早く終わらせて帰りたいから)  いやーしかし楽しいのかもしれないけど、こうして見ると女子の友達付き合いも大変そうだよな…なんて思いながら作業を進める内に、友チョコたちも完成し、あとに残ったチョコは、天音のお父さんと俺の分ということになる。  「はい、これ江蓮の分ね」  「どーもありがと」  工場長から給料を渡されるようにして、俺の分のバレンタインチョコは14日を待たず、チョコを作った当日に支給される。  しかもラッピングなどなく、タッパーに入れられて。  俺の分がタッパーに入れられているのは、ラッピングの箱代とかがもったいないとケチられているのと、俺に渡すためだけにいちいちプレゼントの外見を気にするのを天音がめんどくさがっているからだ。  俺も美味しいチョコが食べられればそれでいいので、犬彦さん用のそれとラッピングやチョコの見た目に天地ほどの落差があろうとも(俺用のチョコは、失敗一歩手前の形が歪なものばかりだ)気にしない。  タッパーの方が洗ってまた使えるからエコだし、ゴミもでないから俺的にもいい。  
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