① 2月の江蓮は、チョコレート職人

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 それに、俺に支給される分のチョコが、1番量が多いのだ。  端数になって余った分や、形が不恰好ではじかれたもの、そういうの全部総取りできるから!  いちばん数的に多くチョコがもらえるって最高じゃない?  とにかく俺は見た目より量! もーこのためだけに毎年、天音のチョコ作りを手伝ってるってもんです!  んじゃさっそく、うちでゆっくり食べよーっと!  用事も済んだことだし、俺はいそいそと帰り支度を始める。  だけどここでハッと俺は気がついた。  「あ、そーだ天音、ついでだからそれ預かっとくよ、当日になったら天音からって言って渡しとくから」  はいっ、と手を差し出して、テーブルの上にやけに大事そうに置かれている犬彦さん用のバレンタインチョコが入ったプレゼント箱へと、俺は視線を向ける。  ここで俺がチョコを受け取っといて代理で当日渡しておけば、天音の手間も省けるってもんだろう、わざわざ14日に時間を作って犬彦さんに会いに来なくていいんだから。  その方が効率いいでしょ?  だからこそ気を利かせて俺がそう言ってやったのに、いきなり感じ悪く天音はブチ切れる。  「はあ? 何言ってんの? 江蓮が渡してどうすんの? 江蓮が渡しちゃったら、江蓮からお兄ちゃんへのバレンタインプレゼントになっちゃうじゃん!」  はあぁ? いやいや、なんねーだろ!  バレンタインにチョコを渡して、俺から犬彦さんへ愛の告白…ってアホか!!  犬彦さんだって、代理の俺からチョコもらったところで、普通に天音からのやつだって察するわ! そもそも義理チョコのくせにもったいぶんなよ!  俺が渡せば天音の手間が省けると思って親切で言ってんのに…めんどくさコイツ。  そんなこんなで帰り際は、なんかお互いに若干ギスギスしながら別れた。  自分のぶんのチョコが入ったタッパーだけ持って、俺は天音のうちを出る。  ま、いいや、とりあえずチョコ〜チョコ食べよー。  犬彦さんには見つからないように(ネタバレになっちゃうから)自分の部屋でじっくり食べるんだ〜、飲み物はホットコーヒーにしよっかなー、犬彦さんがいつも飲んでるコーヒーの粉わけてもらおーっと。  自然とスキップでもしちゃいそうな勢いで俺は、すっかり暗くなった東京の空を眺めながら冬の通りを歩く。  俺にとって2月とは、毎年チョコレートがたくさん食べられる月だ。  天音を含め、お情けで何人かのクラスメイトの女子からもチョコがもらえるのもそうだけど、俺が直接もらうそれらとは比べものにならない量のチョコレートが自然と手に入る月なのだ。  まだ見ぬ大量のチョコレートを夢見ながら、俺は14日が来るのを楽しみに待っている。  
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