① 2月の江蓮は、チョコレート職人

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① 2月の江蓮は、チョコレート職人

   「おまえってさ、ほんとサイテーだと思うよ」  やわらかく溶けた大量のチョコレートと生クリーム、それをボウルに入れてゴムベラで混ぜながら、俺はため息をつきつつ、ぶつぶつと文句を言った。  俺のとなりで、ビニール袋に入ったクルミを、ぶっ叩くことで細かくしている作業中の天音は、そんな俺の文句を聞いても知らん顔をしている。  「なんで俺が…おまえが彼氏に渡すバレンタインチョコを作んなきゃなんないわけ?」  手際よくチョコレートをボウルの中でふわふわと優しくかき混ぜつつも、俺はとなりの天音をジロッとにらみながら文句を続ける。  「別にさ、チョコ作り手伝うのはいいよ、女子のクラスメイトに配る大量の友チョコだとかお父さんにあげる分とか…うちの兄さんにまであげるのはどうかとも思うけど…だけど、まあこういうのは季節のイベントごとだし、毎年手伝ってきたから、俺もいっしょにチョコ作るのはいいよ、天音の手伝いといえども実質的には俺が8割方の作業を担当しているとしても、お菓子作るのキライじゃないし、作りながら余ったチョコとかつまみ食いできるし、お店ばりの量のバレンタインチョコを作るのは別にいいよ、だけどさ…」  つーんと天音は何にも聞こえてないみたいに返事もしないで、クルミをぶっ潰し続けている。  俺はそんな天音の態度に、どんどんイライラしてくる。  「なんで、おまえの彼氏の分まで、俺がほぼほぼ作んなきゃいけないんだよ! なんか俺があげてるみたいじゃん! キモいよ!  アイツだって、俺が作ったチョコだって知ったら超フクザツな気持ちになると思うぞ! あんなやつがどう思ったって俺はどうでもいいけどさ…」  「だからさー、江蓮に手伝ってもらったってことがバレなきゃそれでいいんじゃん」  こっちを見ずに楽な作業をしながら、しゃあしゃあとそんなことを言う天音。  ほんと、イヤな女だなー!  2月最初の土曜日、俺は天音のうちに呼ばれて、天音のうちのキッチンで、天音のためのバレンタインチョコを量産していた。  これは小学校時代から続く、恒例行事みたいなもので、江蓮にあげる分は多めにするからさーという天音のセリフにいつも根負けして(もちろん義理チョコだけど)ついつい手伝っている。  天音が大量に買ってきた、チョコ菓子を作るための余った材料をむしゃむしゃ食べながら(チョコや細かく切ったドライフルーツの欠けらとか)お菓子作りをするのは、それなりに楽しい。(年に一回程度なら)  それに天音にはお菓子作りのセンスがそんなにないので(おまけにガサツでテキトー)普段から熱意をもってうちのごはんを作っている俺が手伝う方が、断然バレンタインチョコはおいしく出来上がる。  自分も最終的には食べることになるのだから、当然おいしいチョコの方がいい。  
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