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「ちょっと待って!」
少年の言葉を制したのは,チサのひと言だ。とっさの事で少年と女の子がビクついたが,もっと驚いていたのは,ガイル猪の子供の方だった。
動物の本能が呼び起こされるのかは定かではないが,猪の子供でも猪は猪で,興奮して暴れだした。前足が怪我をしていても尚の事だ。
チサは目の前の猪の子供を,2人の子供に怪我をさせないために,猪の子供を抱きしめた。
猪の子供を抱きしめながら,チサは不安がる獣に語りかけるように,話しかけた。
「大丈夫よ。あなたには何もしないわ。驚かせてごめんね・・」
誰かに聞かせる訳でもなく,チサはひとり言をつぶやくように言い聞かせていた。
次第に暴れていたガイル猪の子供が落ち着くのを見計らうと,
「あなたたちはゲンリュウさんのお子さん達かしら?突然,声をかけてごめんなさい。森の薬局から,ゲンリュウさんに会いに来たの。ちゃんと,ライさんからの紹介状も持ってきたんだけど」
声に出してきたのは,少年の方からだった。
「ライ先生のところに下働きのお姉さんがいるのは,ロイさんから聞いてます。たまに,父の様子を見に訪ねてきますから。
ボクたちの方こそ,お姉さんに迷惑かけたみたいで,ごめんなさい。あのチビは,ボクと妹が遊んでいる時によく現れるんです。
一緒に遊びたくて来ているんだろうけど,あのチビは人間を知らないのか,好奇心でくっついて来るんです」
少年の名はリュウセイと名乗り,妹はイオリと言った。
ゲンリュウさん家族は,元々黒藍国の東に位置する地域の県に住む鍛冶師の家系であり,王族や貴族・商家にも品物を納める家だったと,リュウセイは父から聞かされていた。
手先が器用なゲンリュウは,細工物も見事な出来栄えで,細々ではあるが日銭を稼いでいた。
何分,人見知りな性格も災いして,あまり多くを語らず,話は専らゲンリュウの妻であるテマリが対応するのだ。
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