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心配したチサにジークは,
鉱山の見える丘の辺りから気配を感じ始め,気を研ぎ澄まして警戒していたこと。
リルがその気配の元かと思っていたが,全く違っていた。『気』の質が違うのだと,ジークは言う。
「あれは,『殺 気』と言うより,
『心 配』している気に似ている。まさかとは思うが・・」
まさか・・ね。ライさんは今頃,薬局で仕事をしている筈だもの。勇者よりも強いライさんが心配して来ているとは,到底思えなかった。
「何なに~?どうしたの!お腹が空きすぎて,幻でも聞いちゃった?」
リルの,のほほんとした空気で,
2人は考えるのをやめて,昼ごはんを終わらせた。
「ワタシたち,薬局に帰らなくちゃ」
「ワタシも帰らないと。母さんに叱られちゃう!でも,チサちゃんやジークさんに逢えて良かったし,楽しかったわ。
今度は畑仕事のない時に遊びに行くね!」
「そうね。その時はお茶でも・・・」
リルは2人に手を振って家へと帰っていった。
「ワタシたちも,薬局へ戻りましょう。ライさんが本当に心配するかも知れない」
2人は,もと来た道を目指して戻っていく。
「危なかった・・・」
気を消していたライさんが,2人のうしろ姿を見つめていた。そこにはリルが,傍にいたのだ。
「良いの,ライ先生。2人に言わなくて!本当は心配して『付いてきた』って。
あの鉱山の谷底は,獣の巣窟になっているから,間違って落ちたら大変だもんね」
ニヤニヤしながら,リルはライさんに言う。
「リル,先生が言ってることと,実際やってることのギャップが激しいのは,前から知ってた。見ていて楽しい」
笑いながらいうリルに,
「あれでも2人は,大事な『従業員』なんだぞ。もしもの事があったらどうするつもりだ!」
「その時は,ライ先生が助けに行くんでしょ?先生は,見捨てることなんて出来ないもの。ワタシたちホビットの民を救ってくれたあの時みたいに・・・」
だんまりを聞かすライさんに,
「もう帰った方が良いんじゃない?先生が薬局にいないと,ここに居るのがバレちゃうよ!」
やばっ!戻らんと。
「悪かったな,リル。畑仕事の途中に抜け出してきてくれて。
近いうちにガイル猪を狩猟をしたら,猪の肉を食べさせてやるよ。熟成させないと食べられないから時間がかかるぞ!」
「先生~待ってるね!」
リルは,空を飛んで去っていくライさんに向かって,叫んだ。
「先生は見捨てない。大切な『モノ』を知っているから」
誰もいない空に向かって,リルはひとり事をつぶやいていた。
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