8話目(前半)

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8話目(前半)

 その部屋はガラスが中央に置いてあり、そこで部屋が鏡写しになっていた。 「ホント、ここ何処なのー…?ちょっと黒幕さーん」  チサトさんが私を見た。全く、兄はこの人のどこを好きになったんだ? 「…私は黒幕じゃありません。あんまり私に喧嘩売らない方が良いですよ」  本当に失礼だ。私を疑うならまだしも決めつけている。この、浮気女が。 「はぁ?お前以外に黒幕が誰がいるんだよー?ふざけんな!」  ハルトまで…こいつ…なにをやったんだ?早く調べないと。まぁあくまで心の中だけ、だけどね。 「仮に私が黒幕だとしたら、あなた達をここから出しませんよ」  イライラしていた。こいつらはバカだ。私の事を黒幕であると決めつけている。 「うわーこっわーい。やめなよー」  チサトさん…いや古河チサト。覚悟しとけよ。 「まぁ、喧嘩はそのぐらいにしたら?」  ハジメさんが割り込んできた。そういえば、ハジメさんとマコトさんは中立なのか。まぁ確かにそうかも知れない。黒幕だと決めつけるのも早いし、証拠が足りない。かと言って私の言葉を鵜呑みにもしないのだ。それが普通だと思うが。中々チサトさんとハルトさんは先入観が強いのだ。 「…はっ、そいつの言う事一応聞くってか?バカらしいぜ、お前ら死ぬだろーよ」 「とりあえず、部屋の探索をしましょう。じゃないとここから出られない可能性もありますからね」  私は冷静にそう言った。これ以上話すと、ボロが出る気がする。  この雰囲気が嫌だったのだろう。リンカちゃんが凄い勢いで頷いている。 「そうですね、それでは探しましょう!」  私はもう黒幕の事を考えなかった。なんとなく、自分では無いかと思ってしまうから。私は、部屋の全体を見つめた。  ハルトさんとチサトさんは私が黒幕であると思い込んでいる。マコトさんとハジメさんは意見次第で動きそうだ。ヒナタは……まぁ分からない。  取り敢えず私は、近くにいたリンカちゃんに話しかけた。 「リンカちゃん、さっきはありがとうね。でも、私をあんまり庇わない方が良いよ。リンカちゃんまで黒幕扱いされちゃ困るから」  私は彼女に対して多少申し訳ない気持ちになっていた。私が黒幕扱いされるのはまだしも、彼女まで巻き込んでしまって、仮に殺されたりなんてしたら大変だ。…まぁまだ何をしたか分からないからこそ、なんだろうけど。 「いえ!!お気になさらないでください。私がやりたくてやったんです。あの人達はあなたを完全に黒幕扱いしてます。それはあまりにも酷すぎます!私は逆にあの人達が黒幕だと思ってます。だから、心配しなくて大丈夫です。それに…私はお姉ちゃんなので、そういうところがあるんです」  リンカちゃんは、少し寂しそうな表情を浮かべた。本当にこの子は良い子なんだろう。だからこそ、騙されやすい。 「そっか、本当にありがとう。でも、身の危険があったら絶対に逃げるんだよ?」  私はそう言って、彼女から離れた。さて、ひとまずこの部屋を調べてみるか。中央はガラスを挟んで鏡写しになっている。端の方には、丸い机と椅子が1つずつ置いてある。不思議な部屋だ。  ここには、特に何かがあるようには思えない。私達は、今のところ協力し合うというものは無い。協力し合おうとは思うけど、私の黒幕説が剥がれるまではそれは厳しいだろう。 「ん?」  ふと机の上を見ると、そこにはカードが置いてあった。勝手に取らないほうが良いだろう。 「…この建物は一体何なんだろう?」 私はその疑問をかき消した。考えたってどうしようもならない。正直、どうだって良い。 「……」 この建物から脱出なんて出来るのだろうか?いや、しなきゃならない。私は僅かに唇を噛んだ。 「いっそのこと……」  私が黒幕だというのなら、私が死んでここからまだ出られないというのなら、そしたら、あの2人は私を疑わないだろうか。いや、きっと共犯者だと思われるだけだ。意味がない。そこまで考えた時だった。 『さて…諸君達』  どこからか声が聞こえてきた。 「えっ?何?どうしたのー?ちょっと黒幕さーんー?流石に辞めときなよー」  チサトさんはまだ冗談めかして言っていた。黒幕の声だろう。まぁ当然声は変えられていたが。 『諸君には人狼ゲームを行ってもらおう。今からカードを配る。それに基づいて、役職通りに動いてもらおう。』 「どういう事なの?人狼ゲーム?」  ハジメさんが困惑した声を上げる。 『ふんっ、どうせお前達にはわからんだろう?だから説明してやる。役職は3種類だ。占い師、狼、村人。』  謎の声がそう言った。そして続ける。 『占い師は誰か1人を選んで占う事ができる。その人間が黒なのか白なのか。次に狼、これは占われると黒と出てしまう役職だ。最後に村人、これは何の役にも立たないいわゆる特殊能力も何もない平民だ。』  うーん?普通の人狼ゲームより役職は少ないがこんなものか。 『そして…狼のカードを引いたものは夜のうちに誰かを殺せ。殺さなければ死だ。そして次の日、狼を見つけるゲームを行う。一番多く投票された人間は処刑だ。分かったな?』 「はぁぁぁ!?何だよそれ!?誰か殺されて、誰か処刑すんのかよ?ってことは2人死ぬのか…!?」  ハルトさんの言葉に、周りがざわりとなる。そして、近くの相手をちらちらと見る。 『クックックッ、では早速カードを配ろう。机の上にあるから取るんだ。良いね?あとこの部屋の扉は簡単に開くからそこから出てもらえば3階の部屋に出る。』  そう言って謎の声は消えた。 「……なんか凄いことになったんじゃね?」  マコトさんが沈黙を破るように言った。 「カードは多分見られちゃいけないんだろ。お前ら見るなよ!」  ハルトさんは警戒しながらカードを取り、退出していった。 「ふーん、ひとまず出よっかなぁー?カードっと。っていうか黒幕さんがとっとと出してくれれば良いのにー」  チサトさんが文句を言いながらカードを取り、出ていった。相変わらず、私の方を見て。 「この部屋調べなくて良いのかな?」  私は部屋を見回した。特に気になるものは無い。だが、なんでこの部屋は鏡写しなんだろう? 「ん?あれ?これって?」  右側にだけ置かれているカードによって、この部屋は完全な鏡写しにはなっていなかった。  カードを退かせば完全になるけど…勝手に退かすわけには行かないな。 「…もしかして」  最後にここを出た人に、何か起こる?いや、正確に言えばカードを最後に取った人だ。なら私のやることは1つ。全員が取るのを待つ事だ。それまで、探索しているフリをしよう。まぁフリというか実際にするのだが。  やはりこの部屋は前の部屋よりも質素に思えた。そういえば、前の部屋はドアというか入り口が無かった。黒幕はわざわざ3階まで運びここに連れてきたのだろう。  でも、理由が無いような?もしかして、あまり遺体を調べさせないためだろうか?カードを取ったら2階の男子部屋に行ってみよう。ただ、遺体が片付けられている可能性もあるが。  それにしても、急に人狼ゲームをしろだなんておかしな話だ。今私達は7人だから占い師が1人、狼が1人、平民が5人といったところか。6分の1の確率で狼を当てる事ができるって事ね……でももし仮にショウさんとユキナさんを殺したのが黒幕だったとすれば、今回黒幕は狼にはならないようになっているのかもしれない。そうなると、黒幕はまぁ平民か占い師か。 「ん?」  そう言えば、アイツは狼が1人だとも、占い師が1人だとも言ってなかったな。もしかしたら、2人以上の可能性もある。そうなると、2人以上死ぬ可能性も出てくるのか。 「………」  どうやら、自分以外は信用してはいけないらしい。最悪、狼5人、占い師1人、平民1人なんて可能性もあるわけだから。更に、警戒しなければ。 「ふー、この部屋はもう良いかな。」  ハジメさんがカードを持って出ていった。  兎に角、狼は今夜殺人を行うのだろう。用心しないと。私はショートスリーパーだから人より眠る時間は短い。だけど、その寝ている間はどれほど大きな音でも起きない。今晩と言っていたのだから、4時から6時の間に寝れば良いだろう。  そういえば、今何時なんだろう?壁にかかっていた時計を見ると夜の7時を回っていた。もう、そんなに経つのか。ここに来たのが何時かは分からないが、かなりの時間が経っているようだ。たった1日で5人もの人間を殺した黒幕。一体いつになったら出してもらえるんだ? 「さて、俺もそろそろ出て部屋に戻るか。いや、死体があった場所で寝たくねーな……もう少し探索するか。」  マコトさんがカードをテキトーに取り出ていった。 「ふーっなんか眠いなぁ。お腹も空いちゃったし。キッチン行って何か作ろうかな…」  リンカちゃんも3枚残ったカードの内、1枚引いて消えて行った。残されたのは私とヒナタだけ。
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