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4話目(前半)
私はまず、殺人現場である三階の部屋へと足を踏み入れた。何のためにあるのか分からない部屋。家の再現の様にも思えた。
部屋にはヒナタとレンさん、そして二人の遺体が有った。
取り敢えず、調べていくか。部屋の端には棚が置いてあり、本が並んでいる。言うなれば図書館の様な場所だ。そして中心のだだっ広い場所に二人が倒れていた。
まずは、棚を見てみるか…。棚には本がいくつも並んでいた。すると、あることに気がついた。
「うん?」
何故か本は順番通りに並んでいなかった。例えば作者の名前順だとか、作品の名前順とかホラーとかファンタジーだとかそういう風には並べられていなかった。普通ではない…。私は隣り合った本を開いた。両方の接点の様なもの…?
「…ん?これって……」
どうやら、出版年月順に並んでいる様だ。偶然だろうか?我が家と同じ並びだ。
「まぁ、珍しいっちゃ珍しいよね」
そうやって本を見ていくと、面白そうな本を見つけた。
「何これ?『鬼の再現物語』?」
伝説の鬼についてごちゃごちゃと書いてある。最初のページには、壁に包丁を刺して、包丁を研ぐと書かれていた。これ、ヒナタが言ってたアレか…?
「ふーん、ありがちだけど面白そう」
都市伝説好きにはたまらん。だけど、棚にはそれぐらいか。
「ん?」
棚の隣にはドアがあった。何処にでもある茶色の扉。
ガチャガチャ
鍵が掛かっている。今は入れなさそうだ。次は二人に話しかけてみるか。手始めに私はヒナタに話しかけた。
「ヒナタ」
ヒナタはこちらを向いた。
「何?なにか見つけたの?」
「いや…そうじゃなくてさ。気になってることがあって。」
そう、ずっと疑問に思っていることがあった。
「気になる事?もしかしてさ誰が殺したかって?そんなの僕にも分からないからね。」
「違うよ!ここに居る人全員にアリバイがあるでしょ?殺すのは不可能じゃない?」
そう、最初二人一組で行動していたのだ。つまり、全員にアリバイがある。殺すのは不可能だ。
「いや、不可能ではないんじゃない?」
驚きの回答が帰ってきた。
「だってさ、二人一組で動いていたなら二人が共犯で殺したってこともありえるでしょ?それに、もしかしたら僕達以外に出ていない人もいるのかもよ。線は薄いけど自殺って事もあり得るだろうし。」
あっさり論破されてしまった。確かに、その可能性もあったのだ。
「だけど初対面の人間が協力するなんかする?」
私が聞くと、ヒナタは呆れたように私を見た。
「初対面のフリをしているだけかもしれないからね」
「な、成る程。確かにそうかも」
私が納得すると、薄くヒナタが笑った。
「ずっと思ってたけど、君ってメンタル強いよね。こんなよく分からないところで殺人が起きてもあまり動揺してない様に見えるんだけど。」
「そうかなぁ?かなり、動揺してるけど。人より顔に出づらいのかも。」
いや、隠してるだけだ。本当はあの遺体を見るたびに吐き気がする。それを隠しているだけだ。
私はヒナタと別れて、レンさんに話しかけた。
「レンさん」
レンさんは優しそうな顔でこちらを向いた。
「どうかしたんだい?そういえばさっき彼、えっとヒナタくんだったかな?話していたけど、何の話を?」
レンさんは正直何か隠していそうだった。闇が深いというかそんな感じ。
「あ、えっと遺体の事とか犯人の事とか?」
というかこの距離感だったし、聞こえなかったのかな…まぁ、情報拡散は良い事かな。
「ふーん、そうなのかい。それじゃあ僕も気になることがあってね。もう遺体は調べたかい?」
「いや、まだ…っていうかあまり調べたくないですけど。」
遺体を調べるのは正直、気の引けるところが大きかった。
「そうか…僕は軽くだけど調べたんだ。女性の体にあまり触るのは良くないと思ったからね。かなりの数、包丁の様なもので刺されていたよ。正直、何かの恨みがあるんじゃないかって思うぐらいに。ここの人間は全員初対面なのにね。」
私はレンさんの話を聞いている時、何処か違和感を覚えた。なんだか、上手く言い表せないが家族とか友人とか大切な人が殺された、みたいな感じだったから。勿論、気の所為なのだろう。だが、彼の話し方はそう思わせる様なものだった。
「確かに、パッと見でもそれぐらいは…本当に何かの恨みがあったみたいですね。それだけじゃない、『何故、殺人が起きたのか』正直、それも疑問です」
いや、疑問だらけだ。まず、ここは何処?から始まって彼らとの共通点は?も通り過ぎて何故殺人が起きたのか?、まで行く。何もかもが分からない。特に知り合いも居ない私は正直怖かった…と思う。自分の感情なんてどうでも良かった。
「もしかしたら、この中に、この参加者の中に黒幕がいるかもしれないんですよね?」
「それは、否定出来ないし、むしろ肯定するね。間違いなく居るんだよ、この中に。殺人の理由か……殺人はどれ程の事情があっても立派な犯罪だ。言い訳なんかで許されて良いものじゃないよ」
レンさんは真剣な表情でそういった。なんとなくだけど、この人は長生きしそうだ。レンさんはそれだけ話すと、他にも気になることがあったのか部屋を出て行った。
私は次に遺体に向かった。そこには無残な遺体と異臭があった。
「…二人はどうして、死んでしまったんですか?誰に殺されたんですか?」
勿論、回答は無かった。だけど、そう声を掛けずには居られなかった。
「っ…どうしてっ…なんで…」
目からは涙が溢れてきた。悲しかったのだろうか?初対面の怖そうな女性と弱そうな少女。だけど、私は知ってる。ミハルさんはサヨネちゃんを気遣っていた。それは人の前ではやらなかったけれど、彼女は根本は優しい女性だった。
「大丈夫?」
すると、ヒナタが近くに来て背中をさすってくれた。
「あまり、君はここに長く居ない方が良いよ。自分が傷付いてしまうだけだ。僕には君にどんな事があったのか分からないけれど、悲しい何かがあったんだろう?この彼女達の死以外にも。」
彼もそうだ。表面上、冷たい対応を取るが本当は優しい青年なんだろう。どうして同い年でここまで違うのだろう。
「うぐっ…あぁ…もう嫌だよ…辛いよ…なんでこんなの……」
数分経つと私も落ち着いて、涙も止まった。目をゴシゴシと拭いた。
「もう、平気なの?あんまり変な事しないでね。」
立ち上がってそう、冷たい言葉をヒナタは掛けたけど私は少し嬉しかった。こんな私でも心配してくれる人がいる事が。ヒナタは離れて部屋を出て行った。私も立ち上がって遺体を観察する。二人の遺体は本当に酷く刺されていた。
「こんなに酷く…本当に何かの恨みがあったのかな?」
二人は心臓を中心に10回以上は刺されている様だ。ここまで酷く刺したのなら犯人は相当な量の返り血を浴びている筈だ。それも2人なのだから想像したくは無いが。
「…」
犯人は一体どうやって殺したんだ?仮に二人一組の共犯だったとしたら、この場所に来たのを見計らって後ろから…いや、背中に刺し傷は無いようだ。前からは到底不可能だろう。自殺もない。自殺ならこんな死に方はしないし、一度刺せばそれで終わる。
「本当にどうやって殺したの?」
そういえば、部屋に入った時異臭がした。それって死んでから何日も経ってるという事。例えば夏場や暑い時なら2日〜3日、冬場や寒い場所なら5日〜7日ほどらしい。
「それって…おかしくない…?」
私達がミハルさんに会ったのはつい数時間前、いや1時間ぐらい…それで、臭いっておかしいじゃん。
「彼女達は、何日も前に殺されていた?」
いや…死臭なんて誰も嗅いだ事がないはず。だったら、テキトーに生ゴミの臭いを付けたとか?でも、それをする理由が無い。
じゃあやっぱり誰かが何日も前に殺した、そして放置した。恐らく誰も来なかったはずだ、この3階には。
つまり、真犯人は………あの時会ったあの2人だ。この遺体の人間が本物のミハルさんとサヨネちゃんなのだろう。恐らく、こうだ。
ニセモノの2人は数日前にここに来て本物を殺した。計画的だったのだろう。殺した後、遺体を放置したままここから出た。そうなるとニセモノのミハルさんとサヨネちゃんが黒幕なの?
今、何処かで生きている2人を考えるとそう思えた。ニセモノの2人は生きている。つまり、自己紹介の時に会った2人だ。あの2人はミハルさんとサヨネちゃんになりきる事で数時間前まで生きていたと演じていたのだろう。そこまで考えたその時、
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