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4話目(後半)
「コツコツコツコツ」
足音が聞こえてくる。
「っ…」
まずい、もし仮に遺体の様子を見に来た2人なら隠れないと!私は慌てて棚に身を潜めた。
「ガチャ」
「ふー、どうやら作戦は成功みたいだな。」
ミハルさん……いやニセモノの2人だ。もう、死んだと思い込まれていた2人のニセモノ。
「ふふ、誰も思わないよ。まさかこの2人のニセモノが居たなんて。」
「あぁ、そうだろうな。俺達の変装はバレねぇよ、いやぁたくさん刺しといて良かった。」
どうして…ここに戻ってきたんだろう?黒幕ならさっさとここから逃げればいいのに。
「しっかし、困ったなぁ。俺たちまで閉じ込められちまうなんて、俺たちは何も関係ねーのによ。俺たち、ちょっとここに居る2人を殺しただけなのによー。」
「そうだね、確かここに集められているのってさ『彼女』に関する人間なんでしょう?」
彼女?一体誰の事だ?すると
「ガチャ」
扉が開く音がした。そこには、鋭い目つきのレンさんが居た。
「君達が、サヨネを殺したのか…?僕の妹を殺したのか!?ニセモノである事なんて最初から分かっていたよ!!妹を間違えるわけないだろう!?」
妹!?確かに2人は髪色とか似てたけど、まさか兄妹だったなんて……!
「っ……!聞いてたのかよ!盗み聞きはいけないことだぞ!」
「いけないことだと?お前らは僕の妹を殺した癖に!何を言ってるんだ!」
レンさんは包丁を持っていた。
「ちょ・・・マジでやめろって!」
「グサッグサッ」
2人のニセモノをレンさんは持っていた包丁で刺した。
「殺してやる…殺してやる……!!」
彼はは狂気的な表情をしていた。
止められない。止めれば、私も死ぬことになる。そう思うと足が動かなかった。
何度も何度も、見ていられないほど何回も刺した。そして、ニセモノは動かなくなった。
「はぁ…はぁ…こんなの久しぶりだ。人を殺したのは。ハッハ…ハハッ」
え…?久しぶり?誰かを殺したの?
レンさんは目を瞑った。
「サヨネ、今そっちに逝くからね。」
そう言って、自らの腹を刺した。思わず声が漏れそうになる。その時だった。
「ガハッ、ゴホッ…そこに誰かいるんだろう?」
えっ!?バレてる!?こんなにちゃんと身を隠してるのに!?
「大丈夫、聞くだけでいいんだ。今更僕は…ゴホッ。僕はサヨネという妹が居たんだ。彼女とは兄妹でね。とても可愛がって居たんだが。ゴホッ、だけど妹はとある男性に恋をしてしまった。
その恋を応援しようとしたんだけど…ゴホッ振り向いてくれなくてそれが家族のせいだと思ってね、2人して…その男性の両親を殺したんだ……。許される罪じゃないよ。僕は今、4人もの人間を殺した。でも…ガハッ後悔はしていない。ニセモノを殺した事に僕は…満足さ。
ただ……彼の両親には謝らなきゃ…ね。その男性の名前は……シュウヤ」
そこまで言った時、彼は息絶えてしまった。
「レン……さん……いや、鈴原レン。お前が、殺したのか……私の両親を?」
私は怒りで震えていた。シュウヤは…私の兄の名前じゃないか。………思わず外れそうになった“仮面”を付け直す。
私は両親を殺された。それが、鈴原レンと森島サヨネによるものならそんな奴死んで当然だ。
でも今は、そうは思わなかった。ただ、生きて罪を償ってから自殺して欲しかった。彼らは殺人を犯したのだから。
「…」
私は静かに辺りを見渡す。
そこには、サヨネ、ミハル、偽物のサヨネ、ミハル、そして、レン。5人の遺体が転がっていた。
思わず、そろりと下がった。ゾッと背中に汗が伝う。
そして、絶望する。こんな風に人の命は簡単に、いとも簡単に、崩れ去って行く。
「ガゴン!」
突然大きな音を立てて、部屋の床の一部が開いた。そしてそこに遺体が吸い込まれていく。
同時に血の跡も綺麗にされていった。残ったのは自分という存在だけ。
「…もしかして、兄さんを殺した連中が居るかもしれないの?」
ニセモノのミハルさんが言っていた。これは『彼女』に関する人間だと。それはもしかしたら…………××の事かもしれないのだ。
「ミハルさんも何か関わっているの?××に」
いや、死んだ人間の事などどうでも良い。今は生きている人間の過去を調べよう。恐らくここには居るはずだ。
兄を殺し、××の友人を死へ追い込んだ人物が。××だって2回ほど殺されかけた。居るのだろう。この中に。だが、どうしてそんな人間が集められている?
どうして………『私』が。こんな人生を歩まなければならないんだ。
「……何故だろう」
いや、理由など後付けでいい。今は彼らの過去を調べよう。私は部屋を出てリビングへと向かった。
リビングでは、リンカちゃんとハルトさん、マコトさんが同じ机でゆったりしていた。いや、話し合いだろうか?
「みなさん、こんにちは。もう、体調は大丈夫何ですか?」
私はごく自然に話しかけた。さっきの部屋での出来事はもうどうでもいい。
それよりもみんなの事を調べないと。
「あぁ、もうヘーキだよ。俺は体はそこそこ強いからね」
マコトさんがそう言った。
「あっ、もう大丈夫です。ご心配ありがとうございます」
リンカちゃんとハルトさんもかなり顔色が良くなったようだ。
「そうなんですね、良かったです。そういえばさっき3階を見に行ったんですが、遺体が無くなっていましたよ」
5体だけどね。嘘は言ってない。
「えっ?マジかよ……じゃあ良かったー。いや、ビビってねぇし」
一番ビビっていたハルトさんがそう言った。
他の2人も少し胸を撫で下ろしていた。…人の死なんてそんなものなのか?
「そういえば、先程からレンさんが見えませんね?何処へ行ったのでしょうか?」
リンカちゃんがそう言った。
「え?今度はあいつかよ?まぁあいつ結構怪しい奴だしそのうち出てくるんじゃねー?」
そんな彼らの会話は非常に滑稽なものだった。鈴原レンはもうこの世には居ない。彼は、逃げた弱者だ。
「そうでしょうか、若干心配です」
さて、自殺の事を言うべきか?…いや、しばらくはそちらに意識を向けるべきだろう。
「私も見ていません。もしかしたら他の人は見ているかもしれませんね。私はもう少し探索に行ってきます」
テキトーにそう発言した。何をしたか分からない彼らにたくさんの情報を渡す必要性は何一つとしてない。
「あー、うん行ってらっしゃい。気をつけるんだ、何処に殺人鬼がいるか分からないからなー」
マコトさんにそう言われた。殺人鬼はつい先程死んだんだけどね。
私はリビングを出て廊下を歩いていた。
さて、何処に向かおうか。彼らから直接過去を聞くのは難しいだろう。何かしらの証拠のようなものを集めて突きつけたい所だ。そう思った時、
「おっ、こんな所にいた」
後ろから声を掛けられた。
「わっ!?」
後ろを振り向くと、ユキナさんとショウさんがいた。
「ごめん、驚かせちゃって。ユキナさんがどうしても君と話したいからってずっと探してたんだよ」
「はぁ…何故?」
ユキナさんはキラキラとした目でこちらを見ていた。
「いや、あのね!僕、こんな記事を見つけたんだ」
そう言って私にその記事を見せてきた。そこには
『強盗殺人!?兄妹に起きた悲劇!』
そんな見出しが躍っている。そしてそこには家の写真と兄妹の写真と事件の詳細が書かれていた。
「この記事は、5年前に書かれた記事なんだけど……この『妹』の方、君だよね?もし、この記事が本物なら君は5年前に両親が殺されたんだ、そうでしょう?」
ユキナさんが確認するように、そういった。恐らく彼女は確信している。これが、私であるということに。
「…だったら、何ですか?」
否定はしない。『間違えてはいない』。まぁ『そっちでは無いけど』。
「ふーん、否定しないんだ?憎くないの?家族を殺されて、そして家まで荒らされて。
でもさ、この記事を読むと計画的な殺人だったみたいなんだよね。おかしくない?だって殺人が目的なら泥棒するのおかしいし、泥棒するのが目的なら空いている時に行けばいいのにね」
それは、私もずっと思っていた事だ。何故、2つのことが同時に起きたのか。私が出した結論は、
「もしかしてさ、泥棒したのと殺人したのが違う人物だと思ってる?」
その通りだ。両親を殺したのは、レンとサヨネだ。しかし、彼らは両親を殺しただけ。恐らく鍵の開いた時に、他の誰かが忍び込んだのだ。
「そう…ですね。でも、私のその記事が見つかるなら皆さんの何かも見つかるかもしれませんね。」
これは、一種の敵対だった。私の友人を自殺に追い込んだ人物、私のところから泥棒した人物、そして私を殺し掛けた人物。それがここにいる彼らかもしれないのだ。そういうと、ユキナさんはおや?という表情を浮かべた。
「成る程ね…喧嘩を売っているのかい?ならやめておいたほうがいい。この場は、あまりにも危険だよ。それとも、何か僕達に関する情報を手に入れたのかい?」
何かの雰囲気を感じ取ったのか、ユキナさんの目が細くなり、私をジッと見つめる。これは、私がやる。私1人でこの舞台を終わらせてやる。
黒幕が誰かなんてどうでも良い、私の恨みの復讐劇だ。彼らから離れて私は呟いた。
「あいつらの悪事、暴いてやろうじゃない!」
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