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5話目
私はキッチンを訪れた。そこにはハジメさんがいて、丁寧な包丁さばきで何かを切っていた。
彼は自己紹介の時も自らを病み期の…鬱っぽい?人間だと言っていた。正直、鈴原レン以上に分からない人間だった。いや、ユキナさんもそれなりに危険か。
「ハジメさん、何作ってるんですか?」
「えっ?あ…どうも。これは、アジだよ、刺身にすると美味しいんだ。」
「つまり今はアジを捌いて、刺身にしようとしているんですね?」
微妙にズレている解答に私は表面上苦笑した。間違いなく油断ならないな…この人は。演技か、それとも天然か。
「うん、料理好きだからね。君は料理するの?」
「えっ?結構しますよー、お昼の弁当とかは自分で作りますし」
家族が1人もいないのだからそれも当然だろう。
「そうなんだ?ふーん意外と家庭的なんだ」
家庭はもう無いが。そうして話していると、数分後、そこには綺麗に捌かれて皿に置かれたアジの刺身があった。
「凄…プロになれますよ、ハジメさん」
「え?そうかな?ありがとう。君も食べる?」
「えっ!?良いんですか?」
気を良くしたのかは分からないが、1つ頂くことにした。とにかく、今はユキナさん達との疲れを癒したかった。…彼も食べているので、毒は入ってないだろう。
「いただきまーす」
パクっ
「おいしーーーーーいい!すっごい美味しいです!」
まさに、絶品だった。絶妙にわさびと醤油、そして酢飯とアジが合っていた。
「うん、すっごい顔で分かるよ。ありがとう」
顔に出やすいか……やっぱり××にはなれないな。
「さっきここに入ってきた時疲れたっていうのかな?そんな顔してたから少し心配でさ。でも、良かった」
少し微笑んでハジメさんは言った。この人は多分良い人なんだろうなぁ。でも、この人も何かしている可能性がある。警戒は怠らないでおこう。
「そんな顔…してたんですね私。心配しないでください、大丈夫ですから。」
この後どうなるかなんて分からない。彼らが何をしたのか。そんなのも分からないのだから。
「そっか、僕じゃ君を救うのは難しいけど、相談ぐらいなら乗るよ。いや、うまくアドバイス出来るかは分からないけど」
この人は、もしかしたら間違って巻き込まれた人間なんじゃ無いか?そう思うほど彼は優しい人間だった。とても、兄さんや××の友人を殺したとは思えなかった。
「本当にありがとうございます」
私は半ば泣きそうになっていた。彼は、兄さんと同い年だったから余計に。
「えっと、それで、ごめんね。実はレンさんにこんな手紙を貰ったんだ。不思議だからさ、君にも見せておこう思って」
「?」
意味がわからない。レンさんからハジメさんへの手紙なら私に見せる必要なんて無いはずだ。
「とりあえず、読んでみて欲しいんだ。」
私は手紙を受け取り、開いた。
『僕がこの手紙を誰かに渡す時もう僕はこの世に居ないだろうね。だけど誰かにこの想いを伝えなきゃと思ってね。許される罪だなんて思ってない。だけど僕は兎に角伝えたいんだ。
僕は殺人を犯した。それも、2人。まだ中学生の妹と高校生の兄の兄妹の家の両親をね。なぜかと言えば、僕の妹は兄である彼の事が好きだったんだ。だけど、その想いが伝わる事はなかった。
だから、彼女はヤンデレ化して両親を殺してしまったんだ。
僕の妹は森島サヨネさ。彼女は兄である彼に振り向いて欲しかったんだよ。どんな方法でも良かったんだ。
だけど、ダメだったんだ。その後、彼が死んだと分かった時のサヨネは狂ってしまったんだ。今もね。
妹が死んだ時、僕は絶望する事になる。もしそうなったら、僕もこの世を去るよ。じゃあね。この手紙をみんなが読んでくれる事を願っている。
鈴原レン』
これは、鈴原レンが遺した最後の手紙、つまり遺書だ。彼は悔やんでいたのだ。私の両親を殺した事を…死んで欲しい訳じゃなかった。ただ、逃げずに罪を償って欲しかっただけなのに。
「僕これを見て思うんだけどさ。サヨネさんを殺したのはこの両親の家の兄妹、どちらかなんじゃないかってさ。復讐の為だよ。よくあるでしょ?」
「…?」
はっ?何言ってんの?それって、私がサヨネとミハルさんを殺したって言いたいの…?
「本気でそう思っているんですか?」
ダメだダメだダメだ、こんな事言ったら疑われるじゃないか。
「ずっと気になってたんだけどさ、君は、何を隠してるの?何を怖がっているの?」
…………何を、隠している?それは黒幕にしか言えない。
「何も隠してませんよ。ただ、怖いだけです。この空間が、ここに殺人鬼がいるかも知れないこの状況が」
私は心の中で自嘲した。嘘ではない。殺されるかもしれない。その恐怖はある。
でも今はそれ以上に調べることがある。
「そうだね…でも僕がそれだとは思わないの?」
「確かに、そうかも知れません。でも、私を殺すのならチャンスはあった。それにその遺書を見せる意味も無かった筈です。
だから、少なくとも私はこの場で、あなたは人を殺していない。そう思います。それに、美味しい料理を作る人が悪い人だなんて思いませんから」
少なくとも、この場で。もしかしたら、兄を殺しているかも知れないのだから。
「そうか……まぁ暇ならここにおいでよ。いつでもって訳じゃないけど、また何か作ってあげるから」
「ありがとうございます。では、私はまた探索してきます」
「うん、お皿は洗っておくよ。じゃあね、気をつけて」
ハジメさんにそう言われて、私はキッチンから出た。危なかった…危うく私が両親を殺された兄妹の妹で人殺しだと思われる事だった。
マズイな、ハジメさんはただの良い人ではなく、中々勘が鋭そうに見える。ユキナさん、ショウさんと会えば私が妹であると分かってしまうだろう。
そして、人殺しであるとみんなに訴えかけるはずだ。そうすれば、過去の話を聞くのは難しくなる。
「やっぱり、仲間が欲しいな」
人に話しかけて、ボソッと本音を漏らしてしまいそうになる人物…?
「誰だろう……」
独り言を呟きながら廊下を歩いていた。そういえば、結局キッチンの中を調べられていなかったな。
「うーんまた後で行ってみようかな」
私は、取り敢えず物置に行ってみることにした。
「物置に居るのかなぁ?」
ガラガラ
「だ、誰ー?」
奥の方からのんびりした声が響く。
「あ、チサトさん。私です。」
「あー、あなたか。ふーんそうなんだー。」
まだ何も喋ってないのに、なんか納得してる…?不思議ちゃんという言葉がお似合いの人だ。この人が人殺しだとは到底思えないが。
「えっと、チサトさんはいつから此処に?」
「んー、遺体を見てからずっとー。なんか埃っぽいよねー、掃除してるのかなー?」
この人、不思議ちゃんだし、話通じないし仲間にしたらポロっとそういうこと言っちゃいそうだしなんかもうある意味危険人物だ。
「そうなんですね。」
この人と話してるとひたすらに疲れる。早めに会話を切り上げよう。
「そういえばさー私結構モテるんだよねーよく分かんないけど。」
自慢か?モテない私に自慢だな!その話をやめてほしいと思い、口を開いた瞬間だった。チサトは驚きの言葉を発した。
「なんかねー、昔三股しててバレちゃったんだよねー、誰だっけなー名前忘れちゃったけど確か1人あなたと同じ名字の人が居たような気がするだよねーうーん、シュウヤだっけなぁ。そんな感じー」
…はっ?兄さんの恋人?しかも三股…??しかも、悪意すらないのか?なんにも、覚えてないのか?被害者の気持ちも!?
「……っ!」
またか…いや、もういい。こんな奴と話すだけ無駄だ。
「そうなんですね、それじゃあ。」
「んーばいばーい」
私は物置を後にした。リンカちゃん達は何をしているだろう?そう思い、リビングに向かおうとしたその時。
「キャァァァァァァァ!!!!」
「えっ!?」
どこからか叫び声が聞こえた。上からか。
慌てて階段を上がるとブルブル扉の前で震えているリンカちゃんが居た。
「ど、どうしたの?リンカちゃん?大丈夫!?」
「あ、あれ……」
リンカちゃんが指差した方向を見た。思わず目を見張る。
何故ならそこには、首吊り死体があったから。ショウさんとユキナさんの首吊り死体が。
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