6話目

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6話目

「どっ、どうして……」  私は腕からチラリと覗くあの跡が見えた。 「あれは……」  リンカちゃんの声を聞いて、ワラワラと人が集まってきた。…もう少し調べたかったけど。 「またかよ!?う、気持ち悪ぃ」  ハルトさんは慌てて何処かへと去っていった。多分、トイレ。 「ほんと、意味分かんない」  ヒナタも僅かに目を細めた。 「まだ、あの2人の殺人も解決してないのに、第2の殺人?いや自殺か?」  私は確信していた。これは、自殺に見せかけた殺人だ。 「…あの皆さん。ちょっと良いですか。」  私の声に全員がこちらを向く。そして私はゆっくりと話し始めた。彼らの過去を探るために。 「あの第1の殺人、犯人が分かったんです」 「えっ!?」  リンカちゃんが驚きの声を上げる。他の人も少し騒ついている。当然だ。 「あの殺人は実は数日前に起きていたものだったんです」 「数日前?どうしてそんなことが分かるの?」  チサトさんが質問した。 「はい、あの部屋に入った時変な匂いがしましたよね?」 「あー、うんしたね、それで?」  ヒナタが相槌を打った。 「あれは、所謂死臭と言われるものです。死臭は夏場であろうと冬場であろうと少なくとも2日は経たないとあの匂いはしないんです。」  私の話をみんな真剣に聞いているようだ。 「そんなの、よく知ってるね……?  ハジメさんが若干引いている。 「ミステリーとかサスペンスとか好きなんです。 続けますね、では問題となるのは私達が出会ったあの2人は何者かという事です。恐らく、あの2人を殺した犯人でしょう。犯人である2人は数日前ここに来て2人を殺した。その後、さっきまで生きていたという事を演出する為にニセモノのミハルさんとサヨネちゃんになったんですよ。 腐敗が進んでいた2人でしたからある程度似せておけば私達は勘違いしますからね。」 「成る程ね、それじゃあそのニセモノさんは何処にいるの?」  マコトさんの質問に答えるか否か迷ったが、一先ず言おうと思った。 「それは……死亡してもうこの世には居ません。」 「えっ!?どういうことですか!?」  リンカちゃんが食い気味に来た。少し元気になったようでよかった。 「彼らは遺体現場に戻って、遺体の様子を確認しに来ました。でも…殺されたんです。」 「殺された?誰に?」  マコトさんが首を傾げながら聞いた。 「鈴原レンさんです」  全員が、いや…ヒナタとチサトさん以外は、驚いたような表情を浮かべる。  ここまで言ったんだ。もう、隠す必要は無い。 「実は私は、レンさんがニセモノ2人を殺している現場を見てしまいました。なんでも、サヨネちゃんはレンさんと兄妹だったんです」 「えっ!?兄妹?確かに似てたけど」  マコトさんが驚きの声をあげた。 「はい、そうですよね?ハジメさん」  私はハジメさんに声を掛けた。ハジメさんは自分に回ってくるとは思わなかったのだろう。驚きの表情をした。 「えっ?僕?あっ、もしかして、この手紙の事?」  ハジメさんはポケットから、先程の手紙を出した。 「はい、その通りです。それはレンさんが遺した遺書です。そこにはサヨネちゃんと兄妹であったことやサヨネちゃんと一緒に何処かの家の両親を殺した事が書かれていました」 「それってつまりさ、レンさんとサヨネさんは人殺しって事?」  ヒナタが僅かに驚いたような口調で言った。私は頷くことしか出来なかった。 「何それ!そんな……!」  リンカちゃんが絶望の顔を浮かべた。 「ねぇ、僕3階に行った時死体が無かったんだけど……なんで?それとレンさんは今何処に?」  ハジメさんが聞いてきた。さっきどうして言わなかったのか。そう裏の意味が込められているのは間違いない。けど、後者の質問にはある程度結論が出ているだろう。 「あぁ……よく分かりませんけど床が開いて遺体が無くなる仕組みでしたよ。血も完璧に拭かれていましたから。レンさんは妹が死んだのに絶望して自殺してしまいました」  その言葉に息を呑む人、ボッーとする人、ある程度予想通りだったのか冷静に耳を傾ける人、十人十色だ。 「……それが本当なら、この中にまだ居るかもしれないんでしょ、殺人鬼が。  あまり喋らなかったヒナタがそういうと、隣のリンカちゃんがびくっと体を震わせた。 「…その可能性は十分にあり得ます」  私は全員にそう言った。声が震えているのが分かる。 「いえ、少なくとも居るでしょう?ユキナさんとショウさんを殺した殺人鬼が」  私以外の全員が、ゾッとした目をした。そして息を呑み、周りを見渡した。疑心暗鬼。恐怖。どろどろな感情の坩堝(るつぼ)が生まれる。 「ちょっ…と待ってください!自殺…じゃ無いんですか?」  リンカちゃんの言葉に、ほぼ全員がそうだと頷いた。  しかし、そうではない可能性の方が高い。 「あぁ、そうですね。その可能性もあります。でも」  私は違和感を感じていた。それは…… 「あまり見たくはありませんが、腕を見てみればわかりますよ。」 「んーどういう事?」  チサトさんがんー?と(恐らく可愛らしく)私を見た。 「気付きませんか?」  私はその態度に若干イラつきながらもショウさんの腕を捲った。その全体図が現れる。 「あっ!?」  ハジメさんから驚きの声が上がる。  そして私はユキナさんの腕も捲った。同じ様になっている。 「これは、リスカだね。僕もよくやるから分かるよ」  ハジメさんが代表するようにそう呟いた。 「はい、腕からチラッと見えていました。犯人は2人の腕を切り、出血させ、気絶かもしくは死亡させた。そして自殺に見せかけるために首吊り遺体に仕立て上げたんです。」 「成る程。凄い推理力だね。実は君がやったんじゃ無い?」  ハジメさんが私を試す様にそう言った。 「そう思っても結構です。でもこれだけだと誰が犯人か分かりませんね。」 「……私達の中にー殺人鬼がいるって事ねー。なーんかうーん怖いねー。」  チサトさんはあまり重要そうにしていなさそうだ。いやそもそも、推理する気も無いんだろうか?自分以外に興味がほぼ無いのだろう。 「クッソ、なんなんだよ……」  いつの間にか帰って来ていたハルトさんがそう独り言を呟いた時だった。 「プシュー」 謎のガスが充満していく。 「キャァァァァァァァ!?」 「今度はなんだよ!」 「うっ!」 なんだ、これ。眠くなる……いやこれってまさか!? 「皆さん、寝ちゃダメです!!!!」  恐らく、睡眠ガスだろう。ヒナタ、チサトさん以外は眠ってしまった。そして、2人も意識を失いかけていた。 「ううーん?ねむーい。ねちゃおー。」 「くっ…や…ばい……!」  私以外の人が全員寝てしまった。そして、私も徐々に意識が途切れていく。 「寝ちゃダメだ…寝たら…」  反抗するのも虚しく、私はそのまま意識を失ってしまった。  私が最後に見たのは、誰かが起き上がる光景だった。
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