『誰かの呪い?』

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『誰かの呪い?』

 今でも金縛りはよくあるんだけど、高校生の頃が一番ひどかった。その中でも、特にビックリした体験ね。  その日は休みで、朝10時過ぎくらいまで寝てた。私は二段ベッドの上で寝てたんだけど、ちょうど、部屋の時計が目線と同じくらいの高さにあって、もう10時か、起きようかなーってぼんやり思ったのを覚えてる。  結局、眠気が強くてしばらく目をつむったままうだうだしてたんだけど、目の奥のほう……というか、感覚的にはもっとずっと頭の奥のほうで、小さな光がはじける感じ、あるいは空気がぴんと張りつめるような感じがして、身体がいきなり硬直状態になった。いつもなら、「金縛りが来るな」って予感があるのに、本当に唐突だった。  金縛りになったあとも、普段なら大抵何か気配みたいなものが辺りを漂い、その気配を遠ざけるように意識しながらもがいているうちに、ふと身体の自由を取り戻している、というのがお決まりのパターンだったんだけど、その日は気配らしきものもなく、そしてもがくだけの力も入らない有り様だった。  いつもと違う状況に戸惑いながら、身体に力の入る部分がないかと探っていると突然、 「呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う」  と、男性の声が耳元で聞こえた。  すぐ横に立った何者かが二段ベッドの柵の隙間から私の耳に直接吹き込んでいる、そんな光景がありありと目に浮かぶような、生々しく距離を感じる声。言葉の物騒さとは裏腹に声は一本調子で、それが余計に不気味だった。  パニックになった私は無我夢中で叫ぼうとしたけれど、お腹にも喉にも力が入らなくて、何十秒か何分か――延々と抑揚のない男性の声が続いて、突如としてまぶたが開いたのをきっかけに金縛りが解け、声も消えていた。  あんまり怖かったので、飛び起きるなり友達に電話して、すぐに会ってもらうことにしたんだけど、取る物も取り敢えずスッピンで家を飛び出した結果、友達にはそのときのことを今でも笑われる。個人的には、耳の奥にまだ男の声がこびりついてる感じがして、未だに笑えない体験なんだけどね。 <終>
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