『指パッチン』

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『指パッチン』

『指パッチン』 俺には指を鳴らすクセがあった。 指を鳴らすって言っても、ポキポキ関節を鳴らすほうじゃなくて、いわゆる、指パッチンのほう。 といっても、指を鳴らせるようになったのは最近のことだ。 もともとは、禁煙中の手持ち無沙汰がきっかけだった。 吸いたくなったときに、適当な小銭でコイントスの練習したりとか、手を動かすことで気を紛らわしてたんだけど、それがどんどん簡略化していって、指を鳴らす練習になり、そして習得したわけだ。 それまで出来なかったのが、嘘のようにパチン! と小気味良く鳴るもんだから、嬉しいのと楽しいので、家で音楽聴いてるときとか、BGMに合わせてパチンパチンやってた。 そしたら無意識に鳴らすクセがついてしまって、立ち上がるときにパチン! 振り返り様にパチン! と日常的に指を鳴らしまくるまでになっていた。 まあ、一人暮らしの家の中だ、誰が迷惑するわけじゃない。 ところが、ある日。 外を歩いていて忘れ物に気がついた瞬間、パチン! と、ついやってしまった。 古いドラマじゃあるまいし、そんな動作をしてしまったのが気恥ずかしくて、 誰かに見られちゃいないか、と周りを窺おうとした瞬間、目の前に人が降ってきた。 飛び降りだったらしい。 目の前も目の前だった為にご遺体をばっちり見てしまった事も、ご遺体には悪いが正直怖かったし、あと数センチ位置がズレてたら俺も巻き込まれてただろうって事も洒落にならないんだけど、俺的には、俺の指パッチンを合図にして人が降ってきたみたいに感じて、それが一番気持ちが悪かった。 実際、俺のした事と、起こった事には何の関係もないんだけどさ、でも指を鳴らすと、パチン! って音の後に響いたあの音を思い出しちゃうから、もう出来ないなあ。 <終>
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