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『番組』
その日、私はいつものように寝そべってテレビを見ていた。
特に見たい番組があるわけではないが、眠くなるまでこうするのが習慣になっていたのだ。
しかし、それにしても今日の番組は妙だった。
代わる代わる役者が映っては、画面のこちら側を覗き込むようにして去っていくのである。
深夜にありがちな妙なドラマか、はたまたマイナーな映画のワンシーンだろうか。
番組表を見ようと思ったがリモコンが見当たらない。
それほど気になったわけでもないので、まあいいかと思い直して画面を見つめていると、役者のうち数人は、聞き取れないほど小さな声で何事か呟いているようだった。
聞き取れなくてはセリフの意味がないように思えるが、これも演出なのだろうか。
他にすることもないためぼんやりと画面を見ていたが、次第に、頭の奥に妙な引っ掛かりを覚えた。
何だろう? この番組が観る者に何らかの疑問を抱かせる内容なのは今のところ間違いないが、そういった、この番組を制作した側の思惑に対する引っ掛かりではない。
もっと何か、私自身に直接関係のあるような、そんな引っ掛かりを感じる。そう、たとえば一昨日の夕食を聞かれたときのような――
と、そうして違和感を突き詰めるうちに、ついに私は、順繰りに現れる役者にはどことなく見覚えのある顔が多いという事に気がついたのである。
頭の奥に感じた引っ掛かりとは、物忘れを自覚したとき特有のもやもやとした違和感であったのだ。
残念なことに、そうと気づいたところで寄る年波のせいか誰一人として名前を思い出せないのだが、しかしこれだけ見覚えのある役者が揃っているとなれば有名な作品なのかもしれない。意識してみれば、あちらもそれなりに歳を重ねた顔が多く、きっと往年の名俳優なのだろうと思わされた。
名前は思い出せないものの、どことなく懐かしさを覚える顔は、一体どの作品で見たのだったか――
そうこうしているうちに、次々に顔を覗かせていた役者がふっつりと途絶え、唐突に画面が暗くなった。それ以降は、待てど暮らせど何も映らない。
結局、何の番組だったんだ?
番組の正体はついぞわからず、テレビの電源が落ちているか否かの確認も面倒だったのでそのまま眠りにつこうとしたとき、ふと、一人の名前を思い出した。
そして私は飛び起きたのだが、もはや私にはどうにもできなかった。
<終>
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