第1話 死んだ世界に生きる人々

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「選手交代だ。小さなヒーロー。」  声と共に肩にかけられる布。これは…マント?  横を通り過ぎた人影から、ふわりと香るシャンプーの匂い。 「借りを返しに来たぜ。」  ニッと八重歯を見せて笑う軍服の女性。声からして間違いない。ゴロツキに絡まれていたあの人だ。  その背中には白い輪に翼のエムブレム。あれって……。 「あ……っ!」  あなたは? そう訪ねようとしたが、ケモノの腕状の舌が動き出したのを見て、咄嗟に「危ない!」と叫ぼうとする。 「っ! よっと。」  舌の動きは速い。腕状の先端に至っては目で追えないほど。  しかし、女性は腕状の手首あたりを難なく片手で掴み取った。 「おいおい……。女性に無断で触るのは重罪だ、ぜっ!」  女性はため息をついて、掴んだ舌を引っ張る。ケモノの脚が地面を離れ、私たちの方へ飛んで来るが、更に女性は懐からサブマシンガンを取り出し、ケモノにばらまいた。 「グギャァァァ! 」  無数の弾幕に、ケモノの体はいくつもの穴が開き、舌は千切れ、胴体が地面に落ちる。 「ふぅ…こんなもんか。」 「す、凄い……。」  あのケモノをものの数秒で、一方的に蹴散らした。  驚きを隠せず、つい思ったことが口に出てしまう。 「っと、無事か?」 「あ、あなたは…いったい……。」 「ん? あぁ、俺はガブリエルだ。軍事企業コロニー『シャングリラ』の『天使』って言えば分かるか?」  この人が『天使様』……。 「こーら。」 「あたっ!」  呆気にとられていると、額にチョップが降ってくる。それは紛れもなく天使様……ガブリエルさんのもので。 「救助対象を保護したら安全な場所まで誘導、だろ? ボーッとするな。」  救助対象……あ!女の子!あまりに静かすぎた為、腕に抱えたまま忘れていた。  慌てて女の子の顔を覗くと……。 「……。」 「…あの、これって……。」 「気を失ってるな。まぁ、無理もねぇか。俺が護衛する。その子おんぶして門まで向かうぞ。そこが1番安全そうだ。」 「は、はい!」
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