第1話 死んだ世界に生きる人々

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「よし!みんな揃ったな!これより演習の装備を配るぞ!」  早朝。半分眠ったままの頭に教官の声が響く。  演習は、国の八方にある門にそれぞれ3、4人の8つの班に別れて行われる。  私たちは南門。同じ班にはクラス委員長のアネットちゃんと、正義感だけは一流のザックがいた。 「装備はハンドガンとナイフ、防瘴気マスクか……。」 「それに応急キット、予備の弾薬まであるわね。」 「戦闘も視野に入れてるって事だろ?よぉし! やってやるぜぇ!」 「ザックうるさい!」  ザックを叱るアネットちゃんを見て、私はホッとする。たぶん私一人じゃザックは暴走しっぱなしだ。 「みんな、防瘴気マスクは付けたな。知っての通りこのマスクは瘴気を防いでくれる。国外では絶対外さないように! 薄いとはいえ瘴気に変わりないからな。」  演習開始の時間が近づいてくる。  教官や国防軍の人たちも緊張しているのが分かった。みんな時計を気にしている。 「よし、開門まであと5分だ。諸君! 準備は――。」 「隊長! 報告です!」  隊長と呼ばれた門の前に立つ男の人の話を遮り、別の軍服の人が近づいて耳元で何か話しかける。  報告なんて珍しくない。私が気になったのは徐々に険しくなる隊長の顔だ。  やがて隊長が声を荒らげる。 「くっ! そんなもの放っておけ! 我々だけで十分だ!」  その声に私たち3人は肩をビクつかせる。「なんだ?」とばかりに互いに顔を合わせた。 「…時間だ。内門を開け! 諸君、遅れをとるなよ!」  隊長の掛け声とともに門が開く。  授業で習った。国の門は二重構造で内門と外門に分かれている。  2つの門の間には空間があり、帰還した際はそこで除染、装備の取り外しが行われる。瘴気を国内に持ち込まない為の構造だ。 「全員入ったな? よし!内門を閉めろ! 締まり次第、外門を開けろ!」  そうして厳重な門を潜った先。そこに外の世界…本当の星が広がっている。 「…ここが、国外……。」  視界に広がるのは、一面灰色の世界。見える範囲に木など無く、土も砂というより塵のようだ。  そして灰色の中に微かな色。ガラクタを積み重ねたような物がいくつもあった。  その1つに隊長が近づいていく。するとガラクタの中から、全身に傷跡のある大男が出てきた。  私は理解した。あのガラクタがスラムの人たちの家なんだ。 「……。」 「……。」  隊長と大男は無言で向き合ったまま。何をしているのか気になり、列から横にズレて見ると、大男が懐から小袋を取り出し、隊長に手渡すのが見えた。 「では、諸君!散開して各々異常の有無を確認してくれ! 1時間後に再度集合だ!」  小袋を懐にしまった隊長が、向き直り指揮を執る。 「さ、俺達は向こうの区を調査するぞ。」  同伴の教官が私の背中を押す。 「あの…さっき隊長が何か袋を受け取っていた気が…。」 「……余計な詮索はするな。」  一瞬、教官の顔が曇る。聞いてはいけない何かがある。私はそれ以上この話題を口にする事は無かった。
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