せっかち症候群

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せっかち症候群

「その資料、半分よこせ」  俺は苛立ちを隠すことなく、細い目をさらに細めて、同僚の山田に言い放つ。  デスクの上にあるのは、この鈍臭い同期よって作成された稚拙で不備だらけの資料。山田は後頭部に両手を組み、ボールペンを鼻と口の間に挟んで、イスをギシギシ鳴らしている。 「え?」  困り顔から一転、訝しむような目を俺に向け、時間差で口角が少し上がる。悟られるまいとそれを瞬時に引っ込ませたのを、俺は見逃さない。 「手伝ってやるって言ってんだよ」 「そんなの悪いよ。……これは俺のミスだし、自分で責任もってやらなきゃ……」  よくもまぁ、軽々しく『責任』と言えたもんだ。その言葉から一ミリも重みを感じることができない。『やらなきゃ』という言葉には、意志が一切感じられない。引き受けてもらう気満々のくせに、上っ面だけの断りを入れるのが気に食わない。なぜ素直に頼めないのか。仕事ができないのはそういうところだと言ってやりたい。    俺は山田に近づき、呪詛のように耳元で囁く。 「俺が良心からこんな発言をすると思うか? 今日の分の仕事はすでに終わった。明日は大切な日なんだ。今すぐ帰りたいところだが、さすがに早すぎてこの時間に帰ると咎められる。上司に仕事が終わったから帰らせてくださいと正直に言いたいところだが、それはできない。新しい仕事をくれるわけでもなく、俺の完璧な仕事ぶりになにかと難癖をつけてくるからな。これはただの時間潰し。わかるか?」 「で、ですよね~」 「わかったなら、さっさと貸せ」  資料の三分の二をひったくるようにして自分の机に持って行く。山田のひきつった顔はいつ見ても面白い。こいつはまだ表情に出る馬鹿でやりやすい。
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