せっかち症候群

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 3か月が過ぎた。俺の熱すぎる彼女への想いは、萎むどころか膨らむばかりだった。この想いが、衝動でも一時的な気の迷いでもないとみんなが理解し始めたのも、この頃だったと思う。やっと俺の誠実さが伝わったというわけだ。ボディガードのように周りを固める ”風華の自称友達たち" も、まるで最初から応援していたかのような振る舞いを見せ始める。  一貫性がなく、手のひらを返すようなモブ女子どもの行動。ずっと敵でいられるよりはマシだが、男としてやはり腑に落ちないものがあった。それに比べて風華は、他人の好意を最初から否定的に捉えるようなことはしない。俺の告白に対する答えが「保留」だったのも、物事を慎重に見極めようとする、思慮深い姿勢が元来備わっているからである。  この違いが、風華とそこらの女子との差だと言ってやりたかった。まあ、高まってきた評価を自らの手で落としたくはなかったので、口が裂けても言えなかったのだが。  何度か遊びの約束を取り付け、デートを重ねるようになった。そうこうしているうちに、彼女についてわかったことがいくつかあった。  映画はあまり好きではないようだ。特に恋愛映画は失敗だった。席に着いて、ものの20分もしないうちに、俺は欠伸が止まらなくなった。どうも日本の恋愛映画は展開が遅すぎる。必死にこらえながらふと隣を見ると、すでに眠りに落ちている彼女がいた。隣に座る俺がギリギリ聞こえるかどうかくらいの、静かないびきをかいていた。彼女の寝顔をずーっと見ることができたので、悪くない初デートだったと思っている。映画の内容は一切記憶にないが。  次はスポーツ。これは得意なようだ。特にラケットを使用する競技は『最強』の一言に尽きる。 「私、ボールがゆっくりに見えるの」  大きな公園に初めて遊びに来たときの一言。 「いいね、マンガの主人公の特殊能力みたいで」と一笑に付したのだが、彼女のむすっとした顔を見て、慌てて訂正した。  それでも、俺が彼女の言葉を信じていないように感じたらしく、「じゃあ、本気で戦いましょう」と彼女は俺に挑むような顔で言った。  バドミントンを1ゲームして、笑ったことをすぐに謝罪した。さっきの言葉が偽りでないと感じるほどに強かったからだ。  フォームは断然、俺の方が良かった。あっちは適当に振り回しているようにしか見えない。だが、確実に返してくる。絶対届かないだろうと思われる位置に飛ばしても、フェイントをかけても、左右に振ってもダメ。瞬間移動でもしているのかと疑いたくなった。いつでも彼女は羽根の落下地点にいた。まるでそこに羽根が来ることを知っていたかのように。  以後、テニスや卓球のような、体格ではなく瞬発力が試されるスポーツにおいて俺が勝てたことは一度もない。
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